落ちた。
深い深い穴へ、転げて落ちていった。
僕は何の為に生まれてきたのだろうか。僕は、僕の生きる意味を見つけたかった。少なくとも、きっとこの今の状況に陥る為ではなかった。そんな、考えてもどうしようもないことを考えてしまう。
そうやって、永遠とも思えるような長い闇の中を落ちていく。
どうしようもないことはわかっている。でも、本当はこんなところで諦めたくない……。
深くて暗い底まで落ちた。
……そう、これ以上下なんてなかった。
視界が開けた。
そこには、思っていたよりも綺麗な世界が広がっていた。
穴の中では綺麗な歌声が響いている。
ふと見上げると、僕が落ちてきた穴から、僕を落とした張本人が落ちてきた。
そいつも、この状況を見て驚いていた。
「ねずみ!?」
そこはねずみの世界だった。
「おじいさん、おむすびをありがとう」
ねずみはおむすびである僕を捕まえた。そして、僕はちゃんとねずみに食べてもらえた。安心した。
僕を落とした張本人のおじいさんは、僕をねずみに与えたお礼に、なんか小槌を貰っていた。
それ、1番体を張った僕が貰うべきでは? まぁもう食べられしまっているし、僕自身の役目は全うできたからいいんだけど。
僕はわかった。
諦めたらそこで試合(?)終了だ。どんなに闇に落ちようと、その先には素敵な未来が待ち受けていることもあるんだと。
僕は役目を果たせて。ねずみは僕を美味しいって言って食べて。なんかおじいさんも幸せになったみたいだし。
めでたしめでたし。
『落ちていく』
11/23/2023, 10:47:52 PM