上手くやってきたはずなのに、どうしてこうなったの?
間に挟まれる私。
でも私は悪くない。誰かに優しくすることの何が悪いの? 嘘なんか吐いたことない。勝手にあなた達が勘違いしただけじゃない。
大体、仮に二人と付き合ってたとして、何か悪い? 二股がいけないなんて、人間が勝手に決めた倫理観じゃない。
でも、さすがに刃物が出てきちゃ、焦るしかない。
どうすればいいの?
「もうどうでもいい」
そう言ったあなたは、手に持ったそれを振り下ろした。
『どうすればいいの?』
ようやく辿り着いた。トレジャーハンターの彼等三人組がずっと探し求めていた地へ。長い旅路を経て、今、夢のような光景が目の前に広がっている。
「すげぇ……」
思わず息を呑んだ。
洞窟の最深部、まさしく宝の山がそこにあった。
長い年月を感じさせる錆び付いた大量の金貨やくすんだ宝石、装飾品が、天井から漏れる日の光に照らされきらきらと輝いている。
一人の男が駆け出して宝の山にダイブした。
とうとう見つけた。手に入れたんだ。夢にまで見たお宝を。
それを、仲間の女は驚いた様子で、もう一人の仲間の男は「こいつは全く仕方ないな」と言った表情で見ていた。
「でもさ」
宝の山に埋もれたまま、男が呟く。
「本当の宝物は、ここまで一緒に冒険に付き合ってくれたお前らだって、俺は思ってるよ」
その言葉を聞いた仲間も、言った本人も、照れくさそうに笑った。
宝の感触をしばらく堪能してから起き上がり、よくよく辺りを見渡してみると、宝の山の向こう側に台座のような物があった。その上には、宝箱が置かれている。
まるで引き寄せられるのように台座のへと向かい、正面に立つと宝箱をよく見た。細かい装飾が施された美しい宝箱だ。
ふと視線を落とした。
その瞬間だった。
背中から胸を貫き、衝撃が走る。真っ赤な血が吹き出ている。
振り返ると、仲間達が彼を見ていた。真っ赤に染まった仲間愛用のダガーを手にして。
何故かと問う間もなく、彼は倒れた。
「俺達が宝だって言うならさ、ここの宝は俺らに譲ってくれよ」
「鬱陶しかったのよ。トレジャーハンターのくせに、あなたのその博愛精神や正義感が」
何かを言おうとしても、口からごぼごぼと血が溢れ、言葉にならない。
仲間の男が宝箱に手を伸ばした。
……やめろ……――危ない、それは罠だ!
次の瞬間、大きな音を立て、地面が割れた。驚いて足下を見る。視線の先には、人を今にも飲み込もうと待ち構える、巨大なワニがうじゃうじゃといた。
「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「キャ――――――――ッッ!」
三人仲良く床下へ落ちていく。
男は体から血を流しながらも最期の力を振り絞り、二人を抱き抱えると急いで鉤縄を宙に向かって投げた。
「…………後……は、頼っ……」
そう言い残し、仲間が縄を掴んだことを確認すると、安心した表情で落ちていった。
そしてようやく、仲間達は本当の宝物がどんなものなのか気付いたのだった。
『宝物』
小さく揺らめくキャンドルの光がとても綺麗で、思わずほぅっとため息を吐く。
これはあなたのキャンドル。心許ない弱々しい光が、あなたそのものね。目を離せなくて、これが守ってあげたくなるってことかしら? とても素敵。
静かに息を吹き掛ける。キャンドルの炎は簡単に消えてしまった。
誕生日って、こうやってケーキの上の年の数ほどのロウソクに息を吹き掛けて消すけど、なんか不吉よね。
でも、その儚い光がとても美しいの。一生懸命生きても、風が吹けば簡単に消えてしまうような。それなのに、消えまいと必死に燃え上がる。
それがあっけなく消えてしまう瞬間が、本当に好き。
さようなら、あなた。
まだここには80億ものキャンドルがある。次はどれを消そうかしら。消える間際、どんな光を見せてくれるかしら。とても楽しみ。
『キャンドル』
懐かしいアルバムを本棚から引っ張り出す。開けば、当時の思い出が蘇る。まるで、あの頃に戻ったかのように。
これはまだ産まれたばかりの小さかった頃。何でもないことで笑うから、こちらもニコニコしてしまう。いつも笑顔だった君。
これは小学校に入学したばかりの頃。ピカピカのランドセルを背負って、少し大人になったみたいだった。
修学旅行はどうだった? 聞かなくてもわかるよ。すごく楽しそうな顔をしてる。親と離れて、初めて行く場所で、みんなに囲まれて撮った写真は、友達の前でだけ見せる笑顔だ。
中学校に入学した頃の写真。友達と離れて、少しだけ不安そう。それでも、またすぐに新しい友達を作っていたね。
反抗期に入って、たくさん喧嘩もしたけれど、何かあればちゃんと心配してくれる。照れながらもちゃんとこっちを気遣ってくれる。そんな優しい子だったね。だって、誕生日に祝ってくれた時の写真、みんな本当に幸せそうにしてる。
高校に入学して、初めてできた彼女を連れてきた時はびっくりしちゃった。かわいくて良い子だったね。お似合いだったけど、若い頃って、いろいろあるよね。ドンマイ。
受験の頃は大変だったね。部屋に籠もって必死に勉強する君に、あまり無理しないで。という心配の気持ちと、でも頑張ってほしい。という応援の気持ちで、いつも夜食を作っていたよ。どう声をかけてあげれば負担にならないかなんて、そんなことを考え過ぎてしまって、なかなかその気持ちは伝えられなかったけど。でも、合格発表を受け取って、こんなに嬉しそうな笑顔を見られて、今見ても本当に良かったって思ってる。
大学へ行って、また新しい人間関係ができていたね。こうやって写真を撮って現像することなんてほとんどなくなっていて、スマホに入っている写真がほとんどだけど。入学式の写真。そして、卒業式の写真は、本当に大人になったなって思った。
社会人になって、離れて暮らしてても、たまにスマホで写真を送ってもらって、お気に入りの写真はこっそりこうやって現像してたんだよ。久しぶりの友達との旅行の写真は、仕事から解放されて、本当に楽しそう。こっちは彼女との旅行の写真。幸せそうだね。
そして、結婚式の写真。大人になったんだね。ちゃんと二人とも幸せになってね。……ううん、大丈夫だね。だって、アルバムの中の二人の写真は、こんなに笑顔だ。
そしてまた、アルバムの中に新しい写真が一枚。
「おめでとう」
懐かしさと、幸せな気持ちで、君のこれからを祈った。
『たくさんの想い出』
冬になったら君に会える。
本当はどんな季節でも会えればいいのに。仕方ない。君は暑いのが苦手だからね。冬に会えるだけでも本当に嬉しいんだ。
でもやっぱり、お別れの時はいつも悲しい。次会えるのはどれくらい先なんだろうって。
だからこそ、それだけ楽しみにしている。冬に君と会って、君と楽しく遊んで。その思い出をずっと胸に抱えて過ごしていた。
冬しかやって来ない君。もうすぐ会える。今年もまた君の美しい姿を見られることを楽しみにしている。
きらきらと舞い散る雪。
冬になったら会える。もうすぐだ。空に舞う君の姿をずっと待っている。
『冬になったら』