懐かしいアルバムを本棚から引っ張り出す。開けば、当時の思い出が蘇る。まるで、あの頃に戻ったかのように。
これはまだ産まれたばかりの小さかった頃。何でもないことで笑うから、こちらもニコニコしてしまう。いつも笑顔だった君。
これは小学校に入学したばかりの頃。ピカピカのランドセルを背負って、少し大人になったみたいだった。
修学旅行はどうだった? 聞かなくてもわかるよ。すごく楽しそうな顔をしてる。親と離れて、初めて行く場所で、みんなに囲まれて撮った写真は、友達の前でだけ見せる笑顔だ。
中学校に入学した頃の写真。友達と離れて、少しだけ不安そう。それでも、またすぐに新しい友達を作っていたね。
反抗期に入って、たくさん喧嘩もしたけれど、何かあればちゃんと心配してくれる。照れながらもちゃんとこっちを気遣ってくれる。そんな優しい子だったね。だって、誕生日に祝ってくれた時の写真、みんな本当に幸せそうにしてる。
高校に入学して、初めてできた彼女を連れてきた時はびっくりしちゃった。かわいくて良い子だったね。お似合いだったけど、若い頃って、いろいろあるよね。ドンマイ。
受験の頃は大変だったね。部屋に籠もって必死に勉強する君に、あまり無理しないで。という心配の気持ちと、でも頑張ってほしい。という応援の気持ちで、いつも夜食を作っていたよ。どう声をかけてあげれば負担にならないかなんて、そんなことを考え過ぎてしまって、なかなかその気持ちは伝えられなかったけど。でも、合格発表を受け取って、こんなに嬉しそうな笑顔を見られて、今見ても本当に良かったって思ってる。
大学へ行って、また新しい人間関係ができていたね。こうやって写真を撮って現像することなんてほとんどなくなっていて、スマホに入っている写真がほとんどだけど。入学式の写真。そして、卒業式の写真は、本当に大人になったなって思った。
社会人になって、離れて暮らしてても、たまにスマホで写真を送ってもらって、お気に入りの写真はこっそりこうやって現像してたんだよ。久しぶりの友達との旅行の写真は、仕事から解放されて、本当に楽しそう。こっちは彼女との旅行の写真。幸せそうだね。
そして、結婚式の写真。大人になったんだね。ちゃんと二人とも幸せになってね。……ううん、大丈夫だね。だって、アルバムの中の二人の写真は、こんなに笑顔だ。
そしてまた、アルバムの中に新しい写真が一枚。
「おめでとう」
懐かしさと、幸せな気持ちで、君のこれからを祈った。
『たくさんの想い出』
冬になったら君に会える。
本当はどんな季節でも会えればいいのに。仕方ない。君は暑いのが苦手だからね。冬に会えるだけでも本当に嬉しいんだ。
でもやっぱり、お別れの時はいつも悲しい。次会えるのはどれくらい先なんだろうって。
だからこそ、それだけ楽しみにしている。冬に君と会って、君と楽しく遊んで。その思い出をずっと胸に抱えて過ごしていた。
冬しかやって来ない君。もうすぐ会える。今年もまた君の美しい姿を見られることを楽しみにしている。
きらきらと舞い散る雪。
冬になったら会える。もうすぐだ。空に舞う君の姿をずっと待っている。
『冬になったら』
こうやって、君の隣にいられるのはあとどれくらいだろうか?
限りある時の中で僕らが出逢えた奇跡を噛み締める。
知っている。どれだけ今一緒にいたとしても、いつかは必ず離れ離れになることを。
そうやって、何度も何度も繰り返してきた。君と出逢い、離れて。また君と出逢うまで何度も何度も。
君は覚えていないだろうが、僕はずっと君を待っていた。
そしてきっと、また離れ離れになっても、何度でも君を探すだろう。出逢えるまで、いつまでも待ち続けるだろう。
でも、またその時が来るまで。今の幸せを精一杯噛み締めて生きていく。
『はなればなれ』
「おいで。かわいいかわいい子猫ちゃん」
歯の浮くような台詞。
普通、素面だったら絶対に言えない。いや、素面じゃなくても言わない。ナンパ男だってそんなこと言うような奴はいない。
我ながら気持ち悪いなと思う。
でも、思わず出てしまった。それだけかわいいと思っているし、傍に来てほしい。
いや、君を形容するのには、かわいいという言葉だけじゃ足りない。宇宙一素敵で、何よりも大切な君。
手を伸ばす。君に触れ、頭を優しく撫でる。
すると、君はゴロゴロと喉を鳴らしながら、僕の膝の上に乗ってきた。
はー……かわいい……!
最近やって来たうちの子猫は超かわいい。いや、大きくなっても間違いなくかわいい。世界一、宇宙一だ。うちの猫かわいー!!
『子猫』
つむじ風が巻き起こり、木の葉が舞い上がる。
高く青い空と少し冷えた風が、秋が来たことを教えてくれる。
あぁやっと秋が来たか。今年の夏は長かったなぁ。それでいて本当に暑かった。
ようやく色付き始めた木々を見渡す。
その木の間で、また新しいつむじ風が生まれていた。
そのつむじ風の中心に、一人の少年とも少女とも見分けのつかない子供が立っていた。
あれ、いつの間に。この子も紅葉を見に来たのかな?
そんなことを思いながら、なんとなくその子のことを見ていた。
そして気付いた。不思議なことに、その子が歩くたびにつむじ風が巻き起こっている。舞い上がる色とりどりの木の葉を見て楽しそうに笑っている。
視線を感じたのか、その子が振り返った。
「しまった!」というような、そんな表情を浮かべた次の瞬間、その子は巻き上がったつむじ風に飲み込まれるように消えてしまった。
――え?
何が起きたかわからず、ただ呆然とその光景を見ていた。
そして、冬がやって来た。
あっという間に冬になったのって、自分のせいじゃないよね?
『秋風』