お題『私の当たり前』
※忙殺中につき一旦寝かせます。
お題『街の明かり』
※多忙につき一旦保留。
寝かせているお題はいずれ一気に更新します。
お題『七夕』
※少し寝かせます
お題『友だちの思い出』
主様のお友だちについて、俺にはいまだに引っかかっていることがある。
主様と名前を呼び捨てにしあっていた、あの少年のことだ。
ずっと近く、どの執事たちよりも間近にお世話をしてきた俺ですら、主様を呼び捨てにしたことはないというのに。なのになのに、あの少年は軽々とそれを越えてきた。
この気持ちは嫉妬だけではない。その少年への羨望もあると思う。もし俺がもう300歳以上若くて街の少年だったら、その機会もあったかもしれない……
……いや、だめだだめだ、もしそんなことになったら俺は主様のお世話というある意味特権を失うことになる。落ち着け、俺。
でもこういう、主様に対して特別感がないと自分のことに自信が持てないなんて、俺って小さい奴だよな……。
お題『星空』
主様たってのご希望で、俺と一緒に見張り台に来ている。
「フェネス、知ってる?」
すっと主様は空を指差した。
「あの星はベガ。で、あっちの星はアルタイル言うんだって」
「さすがよくご存知ですね。
前の主様がいらした世界でのお話に、ベガである織姫星とアルタイルである彦星は年に一度しか会えない……というものがあるそうですよ」
「そうなんだ……」
それきりしばらく黙って夜空を眺めていた主様が、ぽそりとつぶやいた。
「お母様の世界か」
主様には、前の主様であるお母様は亡くなられた話はしている。会いたいと泣いていた頃もあったけれど、今ではそのほとんどを受け入れているようだ。
だけど、時折揺らぐこともあって、まさに今がそのときなのかもしれない。
「フェネスはさぁ、お母様とまた会いたいな……とかって気持ち、ある?」
まったくの不意打ちに絶句していると、主様はため息をついた。
「私はあるんだよねー。会って、あっちの世界がどんなだったのか聞いてみたかった」
前の主様への想いについて言われたのかとドキッとしたけど、よかった、そういうことではなかった。……安堵してしまう俺はやはり卑怯だと思う。自分のこの醜さといつかは対峙しなくてはならないとは分かっているけど……。
「フェネス? どうしたの?」
主様が俺の顔を覗き込んできた。そのお顔が在りし日の、前の主様にあまりにも似過ぎていて、頭の中が掻き乱された。
「い、いえ、何でも……。
あ、そ、そうです! 冷えてきたので中でお茶にしませんか? アモン特製のカモミールブレンドを淹れましょう」
「えー、冷たいのがいいなー」
ブーブー言っている主様は、やはりまだ幼さが抜け切らない。なのになんで混乱したというのか。
「ノンアルコールカクテルの、あの甘いやつ作ってほしいな」
「ええ、いいですよ。すっかり気に入っていただけたようで嬉しいです」
軽い会話を交わしながら、もはや一年に一度も会えない前の主様のことをちらりと思った。
……いや。今、俺のところには年中ご一緒させていただいている主様がいるじゃないか。こんなに幸せなことはそうそうあるものじゃない。
俺はそのことをそっと自分に言い聞かせた。