瞳をとじて
瞳をとじて。
そう指示されて僕のとった行動は拒否だった。
当たり前だ。
そもそも瞳はとじるものではない。
とじるとするなら、まぶたのほうだろう。
そんなこともわからないで、僕に指示するなんて。
「とじられないのなら仕方がない」
そう告げると人間は僕をシャットダウンさせて。
目の前に闇が広がった。
明日に向かって歩く、でも
歩く。
ひたすら歩く。
明日に向かって歩く、でも。
この先に、未来は無い。
だって世界にはゾンビが蔓延っているから。
……生き残っている生物はもういないだろう。
人間も犬も猫も鳥も。
すべてゾンビになってしまった。
意思疎通のできない、化け物になってしまった。
僕もそう。
ゾンビになった。
学校に侵入してきたゾンビに呆気なく噛まれて。
なのに、僕は僕のままだった。
彷徨うことはしないし、人間も襲わない。
意識もはっきりしている。
ゾンビじゃないわけではない。
肉体は確実に腐っている。
どこに向かって、何を成すべきか。
分からない。
だから、歩く。
この先にある、明日を信じて。
ただひとりの君へ
このメッセージは一人分の電波を受信したときにだけ再生される。
おめでとう。
宇宙船に残された、ただひとりの君へ。
わかっていると思うが、もう元の生活には戻れない。
やるべきことがあるからね。
とはいえ、そこまで大変じゃない。
自分の世界のために、数多の世界代表を殺すことに比べたら、ね。
君はただ神と呼ばれる監視者になるだけさ。
世界を守るために他を犠牲にしたのなら。
くれぐれも壊さぬように。
透明な涙
「透明な涙なんて、不思議だね。だからこそ、採取の必要性がある」
タコの形をした自称、宇宙人は言った。見た目に反して、とても低い声だった。
「体内を流れる液体は赤いのに、どうして涙はこんなにも」
私の体は手術台のようなものに縛られていた。いつものように涙でこの場を乗り切ろうとしたら、逆効果だったようだ。仕方がないので、隠し持っていたナイフで体を固定していた紐状のモノを切った。そして、躊躇わず宇宙人を刺す。
何度も何度も刺して、刺した。致命傷がどこかなんてわからなかったから。動かなくなってからやっと、私は一息ついた。
「あんたの涙は青いのね」
あなたのもとへ
「どんなものでもお届けします」
そんな貼り紙を見て、私はすぐに書かれた住所に向かった。二階建ての小さな建物だった。ドアを開けると、カランとベルの音が鳴った。中は想像したよりもずっと狭かった。大きめのダンボールを二つも置けば、歩くところがなくなってしまうほどだった。
「いらっしゃい、どんなものでもお届けします」
満面の笑みを浮かべて男は言った。
「本当に、どんなものでも届けてくれるの?」
「ええ」
「住所がわからなくても?」
「お任せください」
「……いくらでもいい、これを」
私は手に持っていたくしゃくしゃになった紙を男の前に置いた。離婚届だった。結婚生活五年目にて突然消えたあなたのもとへ。私はもう待つのに疲れました。さようなら。
もうあなたとは他人になりたい。