すれ違った人から君と似た匂いがして
咄嗟に振り返ってしまうような
あるいは遠くから聞こえた笑い声が
君の笑い方とそっくりで胸が詰まるような
そんな そんな脆い世界で
僕は遠くの君を想っている
そっちの天気はどうですか
嫌な思いはしていませんかって
多分きっと 君がいなくなってしまった後でも
君に問い続けて
僕は君の中で生きてしまうだろう
ただ遠くの影を追いながら
今の自分をここに置いたまま
昔科学博物館で地球の始まりの展示を見た時
その途方もない年月と確率をくぐり抜けて
今こうして存在している地球や
その中の細胞のような僕が確かに存在する事に
畏怖の念を抱いたのを覚えている
容易く想像できない可能性の中で
こんな僕の生まれた少し後に
遠くの街で君が生まれて
たまたま僕の町へやってきて
それからもう20年近くも変わらず側に居て
そんな星屑みたいな奇跡を思うと
僕は怖くなってしまうと同時に
その奇跡を守り続けたいと願ってしまう
もう一度なんて言わないから、要らないから
この奇跡が一分一秒でも長く続きますように
幼い頃、僕は近所の神社の
ぐにゃりと曲がった松の木に登るのが好きだった
水平に円を書くように曲がった幹は
今じゃ不躾だって失笑してしまうけれど
腰掛けるのに丁度良くて
よくそこに座ってただぼうっと遠くを見ていた
下では当時出来たばかりだった団地の子供達が
こぞって集まって遊んでいて
その笑い声と何処かから漂う夕ご飯の匂いと
遠くから聴こえる夕焼け小焼けのチャイムと
たった一人の僕と
確かに寂しいのに、どこか落ち着くような心地で
僕はその光景が好きだった
今ではもうその松の木は
あっさりと切られてしまって
新しく出来た公園に子供達は吸い寄せられ
神社は夕方になっても伽藍堂になってしまった
ただ西向きの僕の部屋からは
夕日が真っ直ぐ入り込んできて
部屋を橙に染め上げて
窓辺の植物が影を落とすその様を
やはり僕はぼうっと見て
この時間が一番好きだ、と思うのだ
明日もまた当たり前みたいに
朝が来て日が暮れて夜が来て
いつの間にか終わってしまうんだろうけど
その片隅で役目を終えた蝉はいつのまにか消えていて
くたびれた枯葉が地面を覆い尽くして
ああ、その度に嫌でも気付かされる
全てに終わりがあるんだって
ねえ、明日もまた電話をしよう
くだらない話をしよう
冗談ばかりで笑わせあって
おやすみと言ってまた眠ろう
雪が降ってしまう前に何度か会おう
降ってしまってもきっと会おう
そうして来年の今頃も
一緒にいられたら眼福だ
明日もまた当たり前みたいに
朝が来て日が暮れて夜が来て
いつの間にか終わってしまうんだろうけど
その終わりに僕は君を想うだろう
君の幸せを願うだろう
『早く早く早く消えてしまえ
どうせもうまともじゃいられないんだから』
上記は有機酸という方の「quiet room」という
歌の歌詞の一部であり、僕がおそらく人生で
一番聴いているのはこの曲なのではないか、と思う
酷く落ち込んで、ただ自分の中だけを見つめていた時期
何も見たくなくて部屋を真っ暗にして
天井をただぼうっと見つめて
それでもこの曲をループ再生にして
1時間も2時間もずっと蹲っていた
賑やかなメロディーの中に
確かに寂しさが潜んでいて
それは多分、自分ではどうしようもない類のもので
声に出さなくても苦しいよ
幸せに罪悪感を感じてしまうよ
変わらないものがあるって信じていたいよ
そんな感情が聴こえてくるようで
ああ、なんて脆いんだろう
なんて似ているんだろうって
涙を流したこともあった
今やもうお守りのような曲