お題『それでいい』
※二次創作
「ネプちーはベニトのこと心配?」
「ベニトがいなくて寂しいでしょ?」
ベニトアイト。
久しぶりに聞いたその名前に、思わず忘れかけていた思い出がふと頭を過る。
空を眺めるのが好きで、夜にはよくカードゲームに付き合わされた。
そのくせ弱くて、何かと運が悪い。
でも、みんなから可愛がられていて、真面目で。
そして何より、誰よりも青色が美しい宝石だった。
200年以上経った今でも、思い出すのはあの青色。
見回りをしていると、太陽の光を受けてきらきら輝いて、とても綺麗だった。
そんなベニトは、ある年の夏にフォスフォフィライトに誘われて地上を離れた。
月には、青空なんてないというのに。
ベニトを引き立てるあの輝く太陽の光は、届かないと言うのに。
月に行った理由なんて、正直今も分からない。
けれど、きっとほかのみんなと同じように、自ら望んで月に行ったんだと、そう感じる。
だから、何も言うことは無い。
ベニトはベニト自身で選んだ道を進んでいるだけだ。
それでいい。それだけで十分だ。
「別に」
「嫌いなわけじゃないでしょ?」
「好き」
お題「ハッピーエンド」
結婚式場というのは、いつだって華やかで、幸せに溢れている。
幸せの絶頂にいる新郎新婦に、それを祝福する友人たち。
この場で笑顔でないのなんて、私ぐらいなものだ。
こんな顔で友人の幸せを見送りたくなんてないのに、どうしても笑顔にはなれなかった。
結局、私は選ばれなかった人間でしかない。
あなたにとって、数ある友人の1人だった、ただそれだけだ。
気を紛らわせるようにちびちびとジュースを飲み進めながら、ふとちらとあなたの方を見る。
あなたは、笑っていた。
私が隣にいた頃には見せなかった、最高の笑顔で。
(あーあ…)
相手の子、全然私とタイプ違うじゃん。
それはきっと、あなたにとってのハッピーエンドなんだろう。
その幸せに、私が居なくても。
あなたが幸せならそれでもいいと確かに思えるのに、何故か頬に伝う涙を止めることは出来なかった。
お題「見つめられると」
※二次創作
僕はずっと、あの深い紫色の目が苦手だった。
どこまでも真っ直ぐなあの目に見つめられると、自分の全てを見透かされるようで。
勝手な劣等感を抱いていることも、こんなどろどろした感情も、全て。
だから僕は、月に逃げた。
これ以上、苦しさに纏わり付かれるのは嫌だったから。
これ以上、嫌いになりたくなかったから。
月に行けば何か変わるかも、なんて、淡い期待を抱いて。
でも実際は、何十、何百年経っても何も変わらなかった。
アメジストやアレキのようにやりたいことを見つけられる訳でもなく、かといってゴーシェのように自由に振る舞える訳でもない。
ただ、漫然と日々をくらしていた。
そんな、数百年後のある日、フォスが帰ってきた。
そこにかつての面影はなく、身体中ボロボロで、うわ言のように呪詛を呟いている。
フォスが帰ってきたらかけようと思っていた言葉も、全て消えてしまった。
だって、あれは、本当にフォスなのか、なんて。
聞けるはずなんてない。
ぐるぐると回り続ける思考に、僕を置いて進む話。
どうやら、フォスの3度目の計画には、僕も付き合わなくてはならないらしい。
しかも、全ての宝石を粉にするという。
2度目の宇宙船から、懐かしい僕らの故郷を見つめる。
いまから、壊すのだ。
僕の、僕らの手によって。
地上に降り立つと、まずはダイヤがボルツと対峙した。
あの二人の間には、誰にも入れないような蟠りがあるのは知っていたけれど、改めて目の当たりにすると、かつてのあの日々は幻だったのでは無いかとすら思えてしまう。
ふと、視界端に揺れる、赤色。
(うそ、まさか、ハズレだと思ってたのに!!)
一目散にみんなへ駆け寄って行くアレキを、少し出遅れて追う。
そこで見たのは、まさに地獄と形容するに相応しいものだった。
アレキの手によって崩れていく、地上の楽園。
校舎に響く、みんなの悲鳴。
みんなみんないなくなった後、最後に立ち塞がったのは、僕が逃げてしまった、かつての相棒だった。
久しぶりに見た顔は、記憶と少しも違わない。
いつも通りの、何を考えているのか分からない顔。
(どうして、いま、そんな顔ができるんだ?)
あぁ、やっぱり。
だから僕は、君の目が苦手だったんだ。