「お前なら飛べる」
見えない重りをつけられているのに?
「お前は自由だ」
そう言いながら手を離してはくれないね
「なんでお前はあの鳥のように飛ばないんだ」
飛ばないんじゃないよ、飛べないの
「お前なんていらない」
…そう
わたしは初めから飛ぶことなんてできないの。
だってあなたの言うような「鳥のような」ところなんてどこにもないから。
それに気づかなかったあなたが可哀想なんだよ。
【題:鳥のように】
どうか僕のみている世界を知ってください。
僕の目には人が恐ろしいものとして映っています。
妄想や病気といわれてしまえばそれまでですが、皆さんにも経験はあると思います。
例えば、受験や就活時に会った面接官の姿や逆らえない人に叱責されるとき。相手の顔をまともに見ることができない程の緊張や恐怖を感じませんか。
それらは一時的なものだと分かっているから堪えられますが、永遠に続くのならばどうでしょう。
僕はそれを常に感じています。一挙手一投足だけでなく呼吸も心臓の鼓動ですら誰の指示もなく行ってはいけないと錯覚するほど、強い緊張と恐怖に縛られているのです。
何度も説明しました。ときに身振り手振りを加えたり、絵に描いてみたり、いろんな文献から言葉を借りたりして伝える努力をしました。
誰にも理解してもらえません。今も今までもずっと。
これからに期待することすらできなくなりました。努力の成果はすべて「狂った」の一言で切り捨てられるからです。
もうこれ以上は無理だと思ったとき気づきました。
理解されないことで苦しみが増すのならば、理解なんて求めなければいいのだと気づいたのです。説明したあとの反応など受け取らなければいいのです。
ここに文字にして残しはしますが、僕は誰のどんな反応も受け取りません。受け取れない場所にいくからです。
何も残さずに旅立つのは少しばかり癪なので、僕の言葉で知ってほしい部分だけを書き出しました。
これが最後だと思うと中々うまく書けなくて嫌になりますが、もうこれ以上苦しむこともないのなら些細なことです。直接いうことはできませんのでここでお伝えします。
「さよなら」
【題:さよならを言う前に】
あなたが好きだといったから。
たったそれだけの理由で長く伸ばした髪を切って、服もメイクも流行りの色をとり入れて派手にした。
普段の私だったら絶対に使わないネイルチップやアクセサリーまで買って、つま先から髪の一筋まで全てキラキラにしたのだ。あなたはもちろん、他の人にまで驚かれたしとても褒めてもらえた。年下の子たちは似合うといってくれたけど、同年代や年上の人たちは以前のほうが好きだといった。それが少し寂しく感じた。
流行りとはすぐに移り変わっていくもの。
ようやく慣れてきた頃にはもう次の流行りがやってきてがんばって揃えたものが時代遅れのガラクタへと成り下る。
それに気づいたとき、なんだか疲れてしまって結局以前より少し派手かなくらいの格好に落ち着いた。
あなたに良くみられたいという想いもすっかり萎んでしまって、なんであんなに必死になっていたのだろうと笑えてくる。
季節もただ暑いだけの夏から、涼しさも感じられる秋に移っていく。流行りもこの想いもいつの間にか形をかえている。
隣で優しく微笑むあなたのためにがんばったのは嘘ではないの。でも形がかわればそれまでのことが全部嘘のように思えてしまうから不思議ね。
「気まぐれなのは空模様だけで十分だよ」
そうやって困ったように眉を下げながら笑うあなたが大好きで、つい困らせたくなるの。ごめんなさいね。
【題:空模様】
肩口で切り揃えた真っ黒な髪。
夜の闇を溶かし込んだような真っ黒な目。
日に焼けていない真っ白できめ細かい肌。
薄っすらと色づいた頬と唇。
似合うからと着せられたレースとフリルのついた服。
ギュッと冷たい手に握られた。自分と同じ大きさの手。
左横に顔を向ければ全く同じ顔が自分をみていた。
同じように瞬きをして、呼吸も揺れる髪の一筋までぜん ぶ同じ。
ジッと静かに見つめ合う。なんだか不思議な気分になっ て握られた手を握り返した。
「まるで鏡のようね」
どちらが言ったのか分からない。クスクスと笑いあって その様ですら全く同じでまた笑った。
そっくりなんて言葉じゃ足りないね。
【題:鏡】
私には捨てられないものが2つある。
1つは、何年経っても廃れることなく細く長く繋がったままどうにもできないでいるもの。
少し力を入れて引っ張れば簡単にちぎれてしまうものなのに、それができないでいる。
もう1つは、年月を経て育ったこの身勝手な欲望だ。
誰かに言えば嫌な顔をされてしまうし、言わなければ責められてしまうようなもの。
なんの効果も感じない錠剤と話し合いで抑えているとアピールしなければいけなくて、余計に欲張ってしまう。
「いつになったら!」とはよく言われる。
でも私にだって分からないから何も答えられずに謝ることしかできない。
私の代わりはまだいる。その間に終わらせてしまいたいと何度も何度も欲望がでしゃばる。それを必死に隠しては笑いながら黙り込むのだ。
物ならば、捨てるでも譲るでも方法はある。
でも私がもっているものは言葉や距離を設けても切り離 せないものなのだ。
だからいつまでも捨てられない。
人の心ほど厄介なものはないでしょうね。
【題:いつまでも捨てられないもの】