力を込めて
辛い時こそ、包むようにマイクを握る。
そして声に力を込めて、遠くまで届くように歌うんだ。
私は誰かを救いたくて歌手を目指した。
私の歌を聴いてくれた人が、ほんの少しでも前向きになれるように。
嬉しいことに、私の歌が好きだって、よりどころになってるって、言ってくれる人が増えてきた。
気づいたのは、そんなときだった。
私は、私の歌を生きる意味にしてるって。
だから、どんな時だって私は歌う。
私の生きる意味を見失わないように。
星座
毎日朝のニュース番組の終わりに流れる、星座占い。
出発前の慌ただしい時間だけど、欠かさずに私と気になる彼の星座は見てる。
もしかしたら、二人きりで楽しく話せるかもしれないなんて、淡い期待を抱きながら。
今日の一位は彼のてんびん座だった。「恋の動きそうな予感!ラッキーアイテムは黒いペンケースです」と、アナウンサーさんが陽気に伝えている。
彼の恋が動くなら、私の恋だって…。
テレビを凝視していると、いつの間にか最下位の星座になっていた。自分の星座は見逃していない。ということは…。
「最下位は残念!みずがめ座のあなた!人間関係を一歩進めようとして失敗してしまうでしょう。ラッキーアイテムは金色のピアスです」
やはり、私の星座だ。しかも、彼の星座のコメントと悪い方で噛み合っている。彼の恋が動いて、私は人間関係で失敗するなら…。私は失恋するのだろうか。しかも、高校生だからピアスはつけられない。
なんだか不吉に一日が始まってしまった。
彼の占いも私の占いも外れますように。
神様に祈るような気持ちで、家を出た。
踊りませんか?
今日のために仕立ててもらったドレスに身を包み、髪には少女らしい、清楚な飾りをつける。
今夜は私の社交界デビューの日。お兄様と一緒にパーティに参加するの。
同世代の中でも大して綺麗だというわけではないし、面白い知識がたくさんあるわけでもない。
それでも今日くらいは、「踊りませんか?」と言ってくださる方を夢見て。
馬車に乗り込んでもいいでしょう?
巡り会えたら
何十億という人間がいる中で、君しかいないって思える人に巡り会えたら
人生はどんなに豊かで、輝いたものになるのだろうか
奇跡をもう一度
「嘘でしょ…」
目を何回もこすって、また大きく張り出された新入生の名簿を見る。
間違いない。私とクラスは違うけど、彼の名前がある。
小学五年生の頃、初恋を捧げた彼だ。
消しゴムを拾ってもらったとか、転んだ時に大丈夫?と声をかけてくれたとか、そんな彼の小さな優しさを好きになった。中学校は別々だったし、同じクラスだったのは五年生の時だけで、私から話しかける勇気もなかったけれど。
小学校を卒業しても、中学校を卒業しても、ずっと心のどこかにいた。
まさか、同じ高校を受けていたなんて。
この奇跡をくれた誰かに、全力でお礼を言いたい。
そして、図々しいのは百も承知だけど、もう一度奇跡をくださいとお願いしたい。
彼と関わるきっかけを、勇気を、私にください、と。