たそがれ
誰そ彼時。
人の顔が見分けにくい、日の落ちた頃。
彼女の部活が終わるのは大体この時間だ。
校門のそばで待っていると、昇降口から歩いてくる人は確かによく見えない。離れているからなおさらだ。
でも、君の姿だけはよく分かるよ。
ほら、テニスのラケットを下げて、大きく手を振ってくれてる。振り返すと、ぱぁっと笑って走って来てくれる。
暗くなったのに、君は真昼みたいだから。
スポットライトが当たっているように、君だけが輝いて見えるんだ。
秋🍁
田んぼの脇に、群れて咲く彼岸花。
妖しいほどに紅い花が、私の秋のしるし。
窓から見える景色
新幹線の窓側。
眩しいと分かっていつつもパーテーションを開ける。
見えるのは地元とは全く違う街。
洗練されたビル群に、暖かみのある観光地。のどかな田園風景に、誰もが知るお菓子の工場。
一瞬で流れていってしまうこの景色が、移動中の一番の思い出。
形の無いもの
昔は水が好きだった。
周りに合わせて、どんな形にだってなれるから。
自分自身の形は無いけど、君のように周りを見て、自分から合わせられるってことだろう?
僕のように、集団のなかの尖ったものでいるよりずっといい。僕はただ、周りを傷つけるだけなんだ。
だから君に憧れたし、君みたいな水も好きだった。
今は水が憎い。大嫌い。
なぜかって?君を奪ったからに決まってるだろ。
あぁ、水に形があればよかったのに。
そうしたら君の仇討ちができる。君の命を、君を苦しめながら奪った水を、同じように痛めつけてやれるのに。
今も君を愛してる。だけど君みたいな水は、水滴すら見たくない。
秋恋
赤く染まった紅葉の下に、ずっと想い続けた君がいる。
肌寒くなったね、と君が言う。
僕の右手で、君の左手を軽く握る。
君と僕の頬が、紅葉と同じ色に染まる。