裏返し
表の裏は裏。
裏の裏は表。
裏の裏の裏は裏。
裏の裏の裏の裏は表。
裏の裏の裏の裏の裏は裏。
だんだん裏がゲシュタルト崩壊して、なんだかわかんなくなっちゃった。
裏返して見えるのは、表?裏?
それとも…
鳥のように
鳥のように翼を羽ばたかせて
自由に空を飛んでいけたのなら
雲の向こうに住んでる君に、会いにいけるのかな
さよならを言う前に
校門のあたりが、明るい声で満ちている。
卒業証書が入った黒い筒を手に、三年生が最後の時間を楽しんでいるのだ。
教室の窓から先輩たちを眺めつつ、ラインを開く。
『先輩、卒業おめでとう。話したいことあるから、後で時間作ってくれない?』
朝、彼氏に送ったメッセージ。卒業式は終わったのに、まだ既読すらついていない。
別れ話をするって、思われてるのかな?先輩、東京の大学行くし。
少し考えて、ラインにメッセージを追加する。
『先輩。さよならなんて言わないよ。私、先輩と同じ大学目指すから』
卒業式は滞りなく終わり、卒業生となった三年生が校門前にたむろしている。高校生活の最後を必死に先に伸ばしているんだ。
かくいう僕も、その一人。彼女と同じ学校にいられる時間を引き伸ばすために、浅い付き合いのクラスメイトの会話を眺めているだけ。
ポケットからスマホを取り出して、ラインを見る。
通知が一件。彼女である後輩からのメッセージ。
『先輩、卒業おめでとう。話したいことあるから、後で時間作ってくれない?』
まだトーク画面を開いていないから、既読はつけていないことになってる。既読をつけたら、何かしら返信しなくてはならない。
僕は進学して東京へ行くから、十中八九別れ話だろう。ここから東京へは特急で二時間。今までのように、毎日のように会える距離ではない。彼女も卒業して、もし遠くへ行くようならば…。もう、会えないかもしれない。
嫌だ。嫌だから、せめて彼女と付き合ってると言える時間を長くしたい。
そうして、ラインを見ながらうじうじしていると、通知がもう一件増えた。また、彼女からだ。
『先輩。さよならなんて言わないよ。私、先輩と同じ大学目指すから』
話したいことって、これか。
まったく、偏差値足りるのかよ。勉強、苦手そうだったのに。
…でも、やっぱり彼女は強いな。
ようやくラインに既読をつけた。
空模様
目が覚めると、ざあざあと雨が降る音が聞こえた。
そう言えば、嵐が来るって天気予報で言っていたっけ。
ベッドから出てカーテンを開けると、予報通りの大雨が降っている。
今日は、出かけられそうにないな。映画を観に行こうと思っていたのに。仕方ないけど、悔しい。
どこか重い気分のまテレビをつける。
映ったのはいつものニュース番組。この地域で大雨が降るから、警戒しろとのことだ。その他のニュースは事件とか政治の話で、正直面白くない。土曜日の朝なのだから、もっと明るい話をしてほしい。
テレビをやめて、スマホを見ると、溜まった通知の中にラインがあった。遠距離の恋人からだ。
『おはよう〜!そっち、嵐で大変そうだね。こっちはめちゃくちゃ晴れてるから、空の写真送っときます』
メッセージの下にあったのは、清々しいほどの青空。朝の薄い青に慎ましく雲が浮かんでいて、本当に綺麗。
私のところは大雨だけど、君のところが青空ならば、それでいいか。
軽くなった気持ちを抱え、恋人にありがとうのスタンプを返した。
鏡
お土産屋さんに並んだ、ちりめん細工の鏡。
桜に紅葉、兎に猫。赤や桃色、黄色や青。
たくさんの模様に、数多の色。
同じものなんてない鏡を、手に取っては戻す。
彼女は、どれが好きだろう?