鶴づれ

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さよならを言う前に


 校門のあたりが、明るい声で満ちている。
 卒業証書が入った黒い筒を手に、三年生が最後の時間を楽しんでいるのだ。
 教室の窓から先輩たちを眺めつつ、ラインを開く。
『先輩、卒業おめでとう。話したいことあるから、後で時間作ってくれない?』
 朝、彼氏に送ったメッセージ。卒業式は終わったのに、まだ既読すらついていない。
 別れ話をするって、思われてるのかな?先輩、東京の大学行くし。
 少し考えて、ラインにメッセージを追加する。
『先輩。さよならなんて言わないよ。私、先輩と同じ大学目指すから』


 卒業式は滞りなく終わり、卒業生となった三年生が校門前にたむろしている。高校生活の最後を必死に先に伸ばしているんだ。
 かくいう僕も、その一人。彼女と同じ学校にいられる時間を引き伸ばすために、浅い付き合いのクラスメイトの会話を眺めているだけ。
 ポケットからスマホを取り出して、ラインを見る。
 通知が一件。彼女である後輩からのメッセージ。
『先輩、卒業おめでとう。話したいことあるから、後で時間作ってくれない?』
 まだトーク画面を開いていないから、既読はつけていないことになってる。既読をつけたら、何かしら返信しなくてはならない。
 僕は進学して東京へ行くから、十中八九別れ話だろう。ここから東京へは特急で二時間。今までのように、毎日のように会える距離ではない。彼女も卒業して、もし遠くへ行くようならば…。もう、会えないかもしれない。
 嫌だ。嫌だから、せめて彼女と付き合ってると言える時間を長くしたい。
 そうして、ラインを見ながらうじうじしていると、通知がもう一件増えた。また、彼女からだ。
『先輩。さよならなんて言わないよ。私、先輩と同じ大学目指すから』
 話したいことって、これか。
 まったく、偏差値足りるのかよ。勉強、苦手そうだったのに。
 …でも、やっぱり彼女は強いな。
 ようやくラインに既読をつけた。

8/21/2023, 9:06:58 AM