鶴づれ

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8/17/2023, 12:55:24 PM

いつまでも捨てられないもの


 殺し屋になってから、何かを捨てるのは得意になった。

 仕事のために家族を。生きるために矜持を。

 業務のために何もかも犠牲にするのは、殺し屋として最低限のスキル。

 そのはずなのに…。

 君を殺す銃の、引き金を引けないんだ。

 子供時代のたった一年、仲良くしていただけなのに。

 どうして。なんで君だけ捨てられないんだ。

8/16/2023, 11:04:15 PM

誇らしさ


「最優秀賞なんてすごいね、おめでとう」
 みんなが口々にそう言う。
 それもそうだよね。だって、私の短歌が県大会で最優秀賞を取ったんだもの。一年生の私が、先輩たちを差し置いて全国大会に行けるの。
 「最優秀賞」のたった四文字が、本当に誇らしい。みんなも、「最優秀賞」を褒めてくれるの。
 …あれ、何かおかしいな。
 すごいのは「最優秀賞」?「私の短歌」?

8/15/2023, 1:46:57 PM

夜の海


 夜の生ぬるい風が僕の髪を撫でる。
 手に持った懐中電灯は、砂混じりのアスファルトをぼうっと照らす。
 彼女と二人暮らしのアパートから歩いて十分。波の音だけが響く防波堤の上に、懐中電灯で照らされて細い影が伸びている。

「やっぱり、ここにいた」
 僕がそう声に出すと、影はくるりとこちらを向いた。彼女だ。
「あはは。迎えに来てくれたの?」
 彼女は妙にあっけらかんとした、下手くそな笑みを浮かべる。自分を取り繕う嘘が上手な彼女の、最後の砦。
「そりゃあ、今、十時だよ?さすがに心配だって」
「…別に、私だって社会人なんだから。気にしなくてもいいのに…」
 彼女の下手な笑顔すら消えかかる。

 防波堤に立つ彼女に、空いている左手を差し出した。
「僕は彼氏なんだから。気にしたっていいでしょう?」
 帰ろう、とも、話して、とも言わずに、彼女を見上げ続ける。
「…もぅ」
 やがて、彼女の右手が僕の左手に重なった。
 ぴょんと、防波堤から飛び降りる。
「別に、死んじゃおうとしたわけじゃないんだよ…?」

 距離が縮まると、彼女の目に涙が溜まっているのが見えた。今にも溢れそうだけど、必死にせき止めて流れない。
「大丈夫、知ってるよ」
 傷つけないよう、そっと彼女を抱きしめる。
 彼女の嗚咽が、波の音に溶けていった。

8/14/2023, 11:01:45 AM

自転車に乗って


 自転車に乗って、どこへ行こう。

 自分の足でペダルを回せば、歩いていくよりもずっと速く、ずっと遠くへ進めるよ。

 ちょっと遠かった海も、仲良しの友達の家も。今までよりずっと近くなった。

 日本一周だって、できちゃうかも。

 全部、全部、自分の足で漕いで行けるんだ。

 さぁ、自転車に乗ってどこへ行こう。

8/12/2023, 11:42:20 AM

君の奏でる音楽


 君が奏でる音楽は、本当に綺麗で。

 音楽なんてよく分からなかったあたしも、君の音楽は好きなんだ。

 奏でられなくなって苦しむ君を見るのは、あたしだって辛かったよ。

 君の支えになりたくて。君に音楽を奏でる希望を忘れないでほしくて。

 君に、好いてほしくて。

 あたし、頑張ったよ。

 人間をやめて、友達も傷つけて。それでも、戦ったよ。

 それなのに…。どうして運命って、こんなに残酷なの?



魔法少女まどか☆マギカより、美樹さやかちゃんによせて

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