鶴づれ

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8/6/2023, 1:22:12 PM

太陽


 私の前の席の男の子は、太陽みたいな人。

 いつも笑顔で、元気で、見ているこっちまで力をもらえるような人。私みたいな陰キャにも話しかけてくれて…、なんというか、本当にみんなから好かれる人っているんだな、って感じ。

 叶わないだろうなってわかってても…。私は彼が好き。
 でも、告白なんてする勇気どころか、私から話しかけることすらできないんだよね…。これだから陰キャは。

 そのまま、ずるずると迎えた夏休み。
 彼に会えないまま八月になった。
 いつものようにスマホでタブレットで通話アプリとゲームのアプリを同時に起動させる。

「やっほ〜。お疲れ様」
 友達主催のボイスチャットに、約束の時間通りに入ると、先にいた仲間が暖かく迎えてくれた。
 今日はクラスのゲーム好きが集まってオンラインゲームをする日。夏休みは彼に会えないけれど…、こうして友達と気兼ねなくゲームができるのがいいところだ。
 ぱらぱらといつものメンツが集まってきた頃。
 ポロン。見慣れないアイコンと名前の人が入ってきた。

「わりぃー!遅くなった!」
 この声…、彼だ!幻聴じゃない!
「嘘、いつの間に!?」
 思わず大声を出すと、彼のいつもの太陽みたいな笑い声が聞こえた。
「へへっ。なんか楽しそうだから、入れてもらったんだよ。今日まで内緒にして、入った時驚かせてやろうと思ってさ。ナイスリアクション!」

 画面にむかってグッドサインをする彼が目に浮かぶ。
 みんなの、びっくりした、とか、いらっしゃい、の声が、どこか遠くに聞こえた。

 私の千里の恋が足一個分、進んだような気がするよ!

8/5/2023, 1:32:18 PM

鐘の音


 鐘が華やかに鳴る。

 たくさんの花で飾られた教会には、新郎新婦を祝う人たちでいっぱい。地元から離れているのにこんなに人が集まるなんて…。貴女の人を引き付ける魅力は、全く変わっていないのね。安心するような…、妬ましいような。

 それでも私は、笑顔でおめでとうって言わなくちゃね。
 
 貴女の、一番の親友として。

 この日のためのワンピースの裾を、ぎゅっと握る。

 この後の披露宴で、好きな人の友人代表スピーチ、任されちゃったから…。

8/4/2023, 12:34:36 PM

つまらないことでも


 一人ならつまらないことでも、君と一緒なら楽しい。

 って、思えたらよかったのに。

 感情なるものを遠くに置いてきたらしい僕には、君がいつも笑っていた理由がよくわからない。

 「つまらない」も、「楽しい」も、わからない。

 君は今、道路の真ん中で、真っ赤になって倒れて動かないけれど、僕はなにを思えばいい?

 頬に生暖かいものが流れて落ちたんだ。

 僕がどうして泣いているか、君が教えてくれないか?

8/3/2023, 11:45:37 AM

目が覚めるまでに


 夢の中にはいつも、白いワンピースの女の子がいるの。
 本当に会ったことはないけれど、私たち、すごく仲が良いお友達なのよ。私、ずっと病院にいるから、ソフィアが初めてのお友達なんだ。

 その子…、ソフィアはなんでも知ってるの。
 お外にはどんなお花が咲いているのか、アイスクリームはどんなものなのか、どんな遊びがあるのか、学校では何をするのか、どんな人がいるのか。全部調べて、夢で教えてくれるの。一緒に遊んだことも、たくさんあるわ。

 そのせいで私、起きたくなくなっちゃう。
 でもいいの。私に、会いに来てくれる人はいないから。ずうっとソフィアといるほうが楽しいもん。

 …あーあ。私が死んじゃったとき、…ソフィアがいてくれたらいいのに。
 そうしたら、ソフィアが教えてくれたこと、見てみたいな…。一緒にお花を見て、アイスクリームを食べて。…やっぱり、一緒に遊んで。学校に、入ってみるの。

 絶対、楽しいわ。

 ねぇ…、そう、でしょう?…ソフィア。
 …あら。今、寝てるはずなのに、いないのね…。
 もしかして、起きたら…。ソフィアが、…いてくれるの、かしら?
 それは…、すごく、楽…し、み…、ね……………


※数日前の「神様が舞い降りてきて、こう言った」の続きです

8/3/2023, 3:42:49 AM

病室


 点滴が落ちる音さえ聞こえそうな病室で、ただぼうっと天井を眺める。今日も変わらず真っ白だ。

 なんとなくテレビをつけると、好きだったお笑い番組が流れていた。いつの間に、夜になったんだ。

 あれ、私、三回もご飯食べたっけ。覚えてない…。
 まぁ、どっちでもいっか。私はどうせ、長くない。

 お医者さんは申し訳なさそうにお母さんに謝ってたけど、別に、私に治るつもりがないから治ってないだけで。医療のせいじゃ、ないんだよなぁ。

 だって、私に誰も会いに来ないんだもん。
 誰も来ないなら…。私はいらないんでしょ?

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