太陽
私の前の席の男の子は、太陽みたいな人。
いつも笑顔で、元気で、見ているこっちまで力をもらえるような人。私みたいな陰キャにも話しかけてくれて…、なんというか、本当にみんなから好かれる人っているんだな、って感じ。
叶わないだろうなってわかってても…。私は彼が好き。
でも、告白なんてする勇気どころか、私から話しかけることすらできないんだよね…。これだから陰キャは。
そのまま、ずるずると迎えた夏休み。
彼に会えないまま八月になった。
いつものようにスマホでタブレットで通話アプリとゲームのアプリを同時に起動させる。
「やっほ〜。お疲れ様」
友達主催のボイスチャットに、約束の時間通りに入ると、先にいた仲間が暖かく迎えてくれた。
今日はクラスのゲーム好きが集まってオンラインゲームをする日。夏休みは彼に会えないけれど…、こうして友達と気兼ねなくゲームができるのがいいところだ。
ぱらぱらといつものメンツが集まってきた頃。
ポロン。見慣れないアイコンと名前の人が入ってきた。
「わりぃー!遅くなった!」
この声…、彼だ!幻聴じゃない!
「嘘、いつの間に!?」
思わず大声を出すと、彼のいつもの太陽みたいな笑い声が聞こえた。
「へへっ。なんか楽しそうだから、入れてもらったんだよ。今日まで内緒にして、入った時驚かせてやろうと思ってさ。ナイスリアクション!」
画面にむかってグッドサインをする彼が目に浮かぶ。
みんなの、びっくりした、とか、いらっしゃい、の声が、どこか遠くに聞こえた。
私の千里の恋が足一個分、進んだような気がするよ!
鐘の音
鐘が華やかに鳴る。
たくさんの花で飾られた教会には、新郎新婦を祝う人たちでいっぱい。地元から離れているのにこんなに人が集まるなんて…。貴女の人を引き付ける魅力は、全く変わっていないのね。安心するような…、妬ましいような。
それでも私は、笑顔でおめでとうって言わなくちゃね。
貴女の、一番の親友として。
この日のためのワンピースの裾を、ぎゅっと握る。
この後の披露宴で、好きな人の友人代表スピーチ、任されちゃったから…。
つまらないことでも
一人ならつまらないことでも、君と一緒なら楽しい。
って、思えたらよかったのに。
感情なるものを遠くに置いてきたらしい僕には、君がいつも笑っていた理由がよくわからない。
「つまらない」も、「楽しい」も、わからない。
君は今、道路の真ん中で、真っ赤になって倒れて動かないけれど、僕はなにを思えばいい?
頬に生暖かいものが流れて落ちたんだ。
僕がどうして泣いているか、君が教えてくれないか?
目が覚めるまでに
夢の中にはいつも、白いワンピースの女の子がいるの。
本当に会ったことはないけれど、私たち、すごく仲が良いお友達なのよ。私、ずっと病院にいるから、ソフィアが初めてのお友達なんだ。
その子…、ソフィアはなんでも知ってるの。
お外にはどんなお花が咲いているのか、アイスクリームはどんなものなのか、どんな遊びがあるのか、学校では何をするのか、どんな人がいるのか。全部調べて、夢で教えてくれるの。一緒に遊んだことも、たくさんあるわ。
そのせいで私、起きたくなくなっちゃう。
でもいいの。私に、会いに来てくれる人はいないから。ずうっとソフィアといるほうが楽しいもん。
…あーあ。私が死んじゃったとき、…ソフィアがいてくれたらいいのに。
そうしたら、ソフィアが教えてくれたこと、見てみたいな…。一緒にお花を見て、アイスクリームを食べて。…やっぱり、一緒に遊んで。学校に、入ってみるの。
絶対、楽しいわ。
ねぇ…、そう、でしょう?…ソフィア。
…あら。今、寝てるはずなのに、いないのね…。
もしかして、起きたら…。ソフィアが、…いてくれるの、かしら?
それは…、すごく、楽…し、み…、ね……………
※数日前の「神様が舞い降りてきて、こう言った」の続きです
病室
点滴が落ちる音さえ聞こえそうな病室で、ただぼうっと天井を眺める。今日も変わらず真っ白だ。
なんとなくテレビをつけると、好きだったお笑い番組が流れていた。いつの間に、夜になったんだ。
あれ、私、三回もご飯食べたっけ。覚えてない…。
まぁ、どっちでもいっか。私はどうせ、長くない。
お医者さんは申し訳なさそうにお母さんに謝ってたけど、別に、私に治るつもりがないから治ってないだけで。医療のせいじゃ、ないんだよなぁ。
だって、私に誰も会いに来ないんだもん。
誰も来ないなら…。私はいらないんでしょ?