規則的な音と振動に体を揺られながら、車窓の外を眺める。
都会のびっしりと詰められたビルの大群から、
山の向こうの空が見える、緑の多い風景へと流れた景色は流れた。
向こうに残れば、きっと夢への一歩が大きくなる。
一歩進む為の材料や人望、知識は大量に溢れている。
でも、そこには重く太い鎖が絡み付いている。
一つ手にとれば、鎖は体に纏わりつく。
私は気がつけば、前へと進めず、重たい荷物を両手に抱えていた。
どこか遠い所へ。
心はそう叫び、その重荷を捨て列車へと乗り込んだ。
夢への道はまた遠くなる。
戻るには時間のかかる遠い街へと私は向かう。
それでも、諦めはしない。
永いこの人生のたった一瞬の事だ。
遠い街で、遠い夢へと歩みだそう。
今日まで頑張った。
ちょっとミスもしたけど、その分挽回した!
(多分、出来てるはず。でも、、、。)
自分の仕事も結構進めた!
(でも、他の人より遅いかも、、、。)
ちゃんと笑顔で対応できた!
(本当は話したくもない。でも、ちゃんとしなきゃ、、、。)
ポジティブとネガティブの感情がぐるぐる渦巻く。
表情にでないように、ペダルを強く踏み込み帰宅する。
少し足早に部屋の中へ滑り込み、荷物を放り投げる。
とりあえず、先に汗を流そう。今日はシャワーだけでいい。
晩御飯はある物を食べる。空腹が満たされたら良い。
やることはある。でもそれは明日にしよう。
明日は休みだ。
だから、今から私は現実逃避の時間だ。
もう、さっきまでの感情はない。
テレビから流れる、テンションが上がるBGM。
そして、startの文字。
ボタンを押せば、ここからは私が主役の世界。
さぁ、仮想の世界へ。
現実よ、さようなら!、、、少しの間だけ、ね。
「---好きな人いるの?」
机を挟んだ隣に座る君が問いかける。
スマホ画面から視線を少しだけ君へと向ける。
同じくスマホを見ているようで、君はこちらを向いていない。
スマホに視線を戻し、
いるけど、どうした?
逆に問いかける。
その時、視界の端に映る君の影が動いた。
こちらを向いたようだ。
「そう、なんだ。」
隠しきれない動揺が声に出ていた。
「---そっか。」
影が小さくなる。
スマホの電源を切り、机に置く。
そして君の方に体ごと向ける。
びくりと体を跳ね上げ、君はこちらを向く。
君の瞳をまっすぐ見て問いかける。
好きな人はここにいる。君は今、好きな人いる?
心臓の音が早くなる。
君も今、同じだろうか。
君と、今この時から、同じ景色を共に視たい。
ねぇ、君は今、私に何を想う?
end
澄みわたる青が広がる日。
私の目にも見えている。
だけど、この心はそれを受け入れない。
泣き腫らしたこの両目には、
心踊る青空も、霞んだ色のない空でしかなく。
締め付け、傷つけたこの心には、
心地のよいこの風も、においも、音も響かない。
空気が漏れただけの独り言は、私にも届かない。
あぁ、どうか、明日にはこの色の空が私の目にも映りますように。
どうか、私の中のそらに、色が戻りますように。
だから、今日だけは。
この目に映る空が、私の心なのだと、
私の代わりに皆に伝えているのだと思わせて。
ひとりではない、そう、勘違いさせて。
限りあるもの。
永久にあることは許されず、その時間さえもひとつひとつ同じではない。
私の腕の中にいるこの子も、私からみれば小さないのち。
私よりも後に産まれ、私よりも先にその灯火は消える。
ねぇ、本当はもっと遊びたかった?
もっといっぱい甘えたい?
それとも、ひとりの時間がもっとあればよかった?
会えない時間を沢山作ってごめんね。
記憶が薄れてしまうまで離れてごめんね。
最後の瞬間まで寄り添えなくてごめんね。
もうこの子のいのちとは会えない。
私の思い出の中で、あの子の姿はいきている。
可愛くて、愛しい私の小さな小さな弟。
限りある命。
この世界は、そんな命で溢れている。
そして、ちいさな命は今もどこかで産声をあげている。
叶うなら、もう一度あの子のいのちと巡り会いたい。
私の命を分けて、もう一度。
叶わない願いを胸に、思い出の中のこの子をそっと抱き、
どうか幸せに、と叶えたい願いを呟く。