『冬は一緒に』
私の夫は冬だけ熊本にある我が家に帰ってくる。それ以外の季節は様々な地域を仕事で飛び回っているそうだ。正直寂しいが仕事だから仕方ないと自分に言い聞かせる。冬は一緒に過ごせるんだからと。
だが先日、偶然旅行先で夫を見つけた。声をかけようかと思ったが、かけられなかった。他の女と一緒にいたからだ。しかも聞き耳を立ててみると、結婚の話をしている。私は頭の中が真っ白になってその場を立ち去った。その後、夫に直談判しようかとも思ったがやめた。なぜなら、せめて冬だけは一緒に過ごしたいからだ。裏切られたとわかった今でも彼のことが好きだから。
『とりとめもない話』
「なぁ昨日の試合見たか?伊藤完全試合だって?」
登校中友人とそんなとりとめもない話をする。
これだけを見ればなんて事のない日常だと思うだろう。だがそうではない。これは何十回目かの出来事なのだ。朝起きたら昨日と同じ日付、昨日と同じ出来事が繰り返される。幾度となく。当然このループから抜け出せないか俺も色々試してみた。だが無理だった。
どんな行動を取ったとしても、学校に行かなかったとしても結局ループが起こる。友人との会話も同じ内容ばかり。もはや恐怖を覚える。とりとめもない話などもうこの世界には存在しないのだ。
『風邪』
俺は二週間ほど前から風邪気味だった。だが、この程度大したことはないと思い、薬も飲まず、病院にも行っていなかった。そんな中、バッタリと彼女と出会った。行く方向が同じだったので一緒に歩いていると、「体調悪いの?大丈夫?」と聞かれた。俺が二週間くらい前からよくないけどそこまで酷くないから病院には行っていないと言うと、彼女は少し考え込んで「一応病院に行ったほうがいいと思う」と言った。「私のお父さん、風邪が長引いてるなと思ってたら肺炎だったから」そう言われて不安になったので、俺はその足で病院へ向かった。結果は肺炎。本当に彼女の言う通りだった。そして、体調が悪いのを全て風邪で片付けないようにしようと反省した。
『雪を待つ』
私が生まれた日は初雪が降った日だったと母から聞いたことがある。それ以来、私の誕生日には必ず初雪が降った。最初は偶然だと思っていたが、それが十年以上も続くうちに私は雪に愛される運命だと思うようになった。それから月日は流れ、私も結婚する時が来た。結婚式の日、私は一つ年上の夫と一つの約束をした。一緒に百歳まで生きよう。そんな約束を。
それから何十年も経ち、私が九十九歳になった日、私の体にガンが見つかった。医者からはもう半年も持たないだろうと言われてしまった。冗談じゃない。まだ死ぬわけにはいかない。私はそう思って必死に病気と戦った。そうしているうちにガンが見つかってから十一ヶ月と数十日が経った。
夫との約束を果たすまであと数日。
私は雪を待つ。
『イルミネーション』
クリスマスが近づいたからか、街中でイルミネーションを見るようになった。私がボンヤリと眺めていると、女子高生らしき集団が「きれーい。星みたーい」
と言って通り過ぎていった。
違う。私はそう声を張り上げたくなった。
都会にいるからそう思うのだ。一度本当の星を見てみろ。そんな思いは言葉にならず胸の奥に消えていく。
私は忘れられないのだ。幼い頃に見たあの満点の星空を。大自然が作り上げたイルミネーションを。
今街中で煌めいているイルミネーションは星の輝きの代用品に過ぎないのだ。