『プレゼント』
私は今までクリスマスプレゼントをもらったことが無かった。私が十二月生まれだから誕生日プレゼントだけで十分だろうという理由だった。誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントも貰える他の子が羨ましくて仕方がなかったが、何も言えなかった。
それから長い時間が流れ、私は成人して彼氏もできた。その彼氏からクリスマスに呼び出しを受けた。
なんだろうと思って行ってみると彼は真剣な顔でこう切り出した。「結婚してください」そう言って彼は指輪を差し出した。私は涙ぐみながら「はい!!」と答える。生まれて初めてのクリスマスプレゼントがこれで本当に良かった。
『ゆずの香り』
子供の頃、母親が毎年柚子湯を用意してくれた。
ゆずの良い香りがしてすごく嬉しかったのを子供心に覚えている。
それから数十年。母は亡くなり、私もずいぶん歳をとった。そんなある日、ふと思い立って柚子湯をしてみた。湯船に浸かると、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。私の思い出はゆずの香りの中にある。
『大空』
私は宇宙飛行士のメンバーに選ばれていた。だが、ありもしない疑惑をでっち上げられて、メンバーから除外された。必死で違うと弁明しても、誰も信じてくれなかった。世間からは大きなバッシングを受け、家の前には大勢のマスコミが押しかけてきた。
もう嫌だ。
もう疲れた。
気がついたら高層ビルの屋上に来ていた。
あぁ、やっと落ち着ける。死んだらあの大空の上に登れるといいな。そう思いながら私は身を投げた。
『ベルの音』
私はクリスマスに休めたことは一度たりとも無い。
小さい時は親に家業の手伝いをさせられ、大きくなってからは家業を継いで働いた。家業でずっとベルの音を聞いていたので、ベルの音が大嫌いになった。
正直、クリスマスを楽しめる人たちが羨ましいし、妬ましい。それでも私は働かなければならない。誰かに夢を届けるために。私は今年もベルを鳴らしながら空を舞う。
『寂しさ』
私は小さい頃からずっと一人だった。
親からは育児放棄され、周りからはいじめられた。
普通の子供なら辛い、寂しいという感情を感じるのだろうが、私にとってはこれが当たり前なのでそんなことは感じなかった。
そんな私にも大学に入ると一人の友人ができた。明るくて、周りからも尊敬されるような子。そんな人と対等に話せていることが、一人じゃないことが本当に嬉しかった。だがある日、「私、外国に行くことになったんだ」と友人から言われた。おそらくもう日本には戻ってこないだろうとも。その場でお別れを済ませ、家に戻ると今までにない感情が胸に溢れてくる。私は今、初めて寂しさを知った。