ひのね

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12/22/2023, 1:33:13 PM

#ゆずの香り

一日の終わり。片手には買い物袋。
新雪をふかふかと踏みしめながら、私は家までの帰路を歩く。静かな住宅街の中、突発的に鼻歌を歌い出したくなるほど、私はとあることで胸を踊らせていた。

「ただいま〜」

普段は口に出さない言葉。ひとり暮らしなので勿論返事は帰ってこない。荷物を下ろしたところで、私は颯爽と風呂場に向かう。いつもなら早くベットに横になりたいところだが、今日はお風呂場への足取りが異様に軽い。
お湯が沸いたところで、私はようやく取っておきの「アレ」を袋から取り出す。丸くてさっぱりしたいい匂い。私はそれをすっとひと吸いしてから、お風呂の中にボチャンと入れた。ぶくぶくと音を鳴らしながら、それはあっという間にお風呂の中に溶け込んでいく。ほぼ無くなりかけた頃には、ゆずの香りが辺り一面に漂っていた。私はそれを噛み締めるように吸い込み、お風呂に入る。
仕事終わりの寒い日。一日のご褒美。

「バスボム、買ってよかったなぁ」

12/22/2023, 2:40:42 AM

カツンカツンと杖を頼りに1歩ずつ歩いてゆく。
見ると、どうやら右足が正しく使えていないようだった。季節はもうすっかり冬らしくなり、新雪がちろちろと降っている。杖を握る指が真っ赤に染まり、かじかんできたであろう頃、杖をついたその”少年”はふと立ち止まった。
いったいその足が正常に機能しなくなってからどれ程経ったのだろうか。杖の扱いには慣れているようであった。そう思っている間に少年はついと顔を上に向けた。その瞳孔は虚空を描いている。つられて私も上を向く。目の前に広がったのは、ぼんやり白みがかった青い空。


#大空

12/12/2023, 6:44:57 PM

心に直接触れてくる言葉に会うと、元々涙脆い私は途端に崩れて落ちてしまう。

12/1/2023, 4:25:38 PM

#距離

ありきたりな話。
親友は私がいくら遠くに行っても、いつも私の後ろに着いてきた。それは私が好きだからというより、ただ人からの離れ方を知らないのであった。執着に近いものでもあった。非常に絶妙なのであった。

高校生になる。
人の心の醜さを知り、欠点が嫌に目に付く。頭にこびりついた人に対する恐怖。畏怖。それを私の目線は誰よりも鮮明に覚えている。
ざあざぁと雨が降り続ける雨音は、まるで人を小馬鹿にしているようで、地面に飛び散る水滴はあまりに乱暴で。
傘を引きずったまま、振り返ることも出来ない距離のまま、ずっと。

2/11/2023, 11:13:31 AM

#この場所で
そうそう!まさにここ、この場所!あの子はねー、ここで永遠に時が止まってんの。もちろん物理的に時が止まってるわけじゃないよ?
過去の甘ったるい思い出に囚われてここから身動き出来なくなってんの。時計の針はきちんと前に進んでるのに馬鹿だよね〜。
こんな真っ暗な闇の中。
前後左右も分からないくせに。

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