川沿いのカフェでお茶をしてる時、少し川下へ降りて流れる水に手を当ててみた。
冷たかった。
キンと冷えた水が川上から勢いほどほどに流れる。
透き通った水は、春の訪れを唄うように葉や花びらを運び、水の流れる音が虫の声を呼ぶ。
鳥が鳴き、太陽が森の緑を照らして、行き交う人々が各々に自然の中で言葉を交わしていた。
川の流れに当てたままの私の手は、少し早く夏の訪れを感じていた。
ふと思った。
だから私は彼女が好きだったのだと。
写真を撮るためでなく、流行りに乗るためでもなく、彼女なら間違いなく、ただ私とこの瞬間を楽しむためにここへ来ただろうと思った。
ただこの瞬間を思い出にするために、私を誘っただろうと思った。
きっと彼女なら、服が汚れるかどうかなんて気にせずに川遊びをしようと誘ってきたはずだ。
そして2人で、人目なんて、風邪を引くかどうかなんて気にせずに、大はしゃぎして遊ぶのだ。
たぶんその後、2人で風邪をひいて、大笑いするのだ。
私は彼女の、今を最大限に生きる姿勢が好きだった。
だからずっと嫌いになれないのだ。
もう二度と会うことはないと分かっていても、まだ思い出の中に彼女の面影があるのは、きっと彼女が私を自由に導いてくれたからだ。
私の手は、川の流れに抗いながら水を掬った。
彼女なら、ふざけてこの水を私の顔に、びしゃびしゃになるまでかけただろう。
きっとそうだと、ふと、本当に、本当に一瞬だけ、思った。
-ふとした瞬間-
今なら飛べそう、って本当だよ。
今なら、どこだって行けそう。
長い長い9ヶ月だった。
初めての土地でただひたすらに日々を消化して、
砂嵐の中で、味のしないご飯と、友達の声が、
ただ私を生かしていた。
ここでは幸せでいれないと気がづいた。
溢れかえる情報の中にでさえ、私を探すことはできないということにも気がついた。
どこへ行こう。
海へ出よう。
8月から海へ出る。
世界一周クルーズ船の乗船員として。
また新たな始まりが見える。
いつだって、どこへだっていけるのだ。
ただ、私は檻の中で飼い慣らされた青い鳥より、
空を飛ぶただの鳥になりたい。
-どこへ行こう-
「愛してる」なんて言う機会そうそうないけど、
気づけば周りには、私が愛してるものばかり。
人も、物も、環境も、愛し愛され存続している、そんな気がする。
幸せと愛を感じながら生きることは、お金や地位や権力を得るより何倍も尊いし、大切。
肩書きだけが重くて、空っぽな人間になってしまわないように。
自分も人も、大きく愛せるように。
-big love!-
たまに、たまにね。誰か私のことをわかってくれて、包み込んでくれる人を早く探して、2人でどこか遠くの世界の端っこで暮らしたいって思うの。
彼がいたら何もいらないって思えるくらい、そのくらい大切な人と一緒にどこかに消えたい。
2人が消えたことが誰にも知られないくらい、そのくらい遠くて、地球の端っこにある所。
長い夢を見た。
途方もなく続く夢だった。
ああ、目覚めることはないのだ、と悟った。
体と心が分離して、魂が宙に浮いた様な、そんな感覚があったのを覚えている。
まるで、魂がこの体に閉じ込められている気がして、「ここから出して」と言わんばかりに、意識と共に遠のいてゆく。
長い長い夢だった。
しかし、夢の中を彷徨う時、何かの拍子に魂が押し戻された。
ここにいてはいけないのだと、誰かが言った。
宇宙を駆ける星の速さで、魂は来た道を流れた。
宇宙の黒を抜け、空が見えて、土地が見えて、だんだんと加速して、最高スピードで流れる中で自分の寝顔が見えた。
そして突然に目が覚めて、天井が見えた。
体は鉛の様に重く、頭はトリックアートの様に渦巻いていた。
目覚ましは30分後に鳴る予定だった。
暖房の風に吹かれて、バイクが走る音が聞こえた。
朝まであと少し、もう少し彷徨いたかったのに、また此処に戻ってきてしまった。