川沿いのカフェでお茶をしてる時、少し川下へ降りて流れる水に手を当ててみた。
冷たかった。
キンと冷えた水が川上から勢いほどほどに流れる。
透き通った水は、春の訪れを唄うように葉や花びらを運び、水の流れる音が虫の声を呼ぶ。
鳥が鳴き、太陽が森の緑を照らして、行き交う人々が各々に自然の中で言葉を交わしていた。
川の流れに当てたままの私の手は、少し早く夏の訪れを感じていた。
ふと思った。
だから私は彼女が好きだったのだと。
写真を撮るためでなく、流行りに乗るためでもなく、彼女なら間違いなく、ただ私とこの瞬間を楽しむためにここへ来ただろうと思った。
ただこの瞬間を思い出にするために、私を誘っただろうと思った。
きっと彼女なら、服が汚れるかどうかなんて気にせずに川遊びをしようと誘ってきたはずだ。
そして2人で、人目なんて、風邪を引くかどうかなんて気にせずに、大はしゃぎして遊ぶのだ。
たぶんその後、2人で風邪をひいて、大笑いするのだ。
私は彼女の、今を最大限に生きる姿勢が好きだった。
だからずっと嫌いになれないのだ。
もう二度と会うことはないと分かっていても、まだ思い出の中に彼女の面影があるのは、きっと彼女が私を自由に導いてくれたからだ。
私の手は、川の流れに抗いながら水を掬った。
彼女なら、ふざけてこの水を私の顔に、びしゃびしゃになるまでかけただろう。
きっとそうだと、ふと、本当に、本当に一瞬だけ、思った。
-ふとした瞬間-
4/27/2025, 1:53:27 PM