John Doe(短編小説)

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2/3/2024, 1:06:35 PM

ビートル


ブロンドヘアーの君は強くドアを閉める
クールな横顔を確認したあと、ビートルを走らせた
俺は親父のお下がりのパーカーを着ている
彼女はティーンエイジャーなベスト
でも君は俺を笑ったりしない
俺が灰をかぶったお姫様なのを知っているから

水色のビートルは彼女の学校の校門で止まる
君は味気ないキスをすると降りていくんだ
俺は魂を引っこ抜かれたようになる
だけどすぐにアクセルを踏む
もう二度と見たくないような気がした
人生はクリスプみたいに薄くてすぐなくなる

チューインガムを噛みながら鼻歌を歌う
昔親父の車で聴いたブルースだ
鉄橋を渡り、街中へ向かう
途中で喫茶店に寄り、栄養補給した
ちらつくコンピューターの画面を見ていた
それから性病予防の広告を見て店を出る

雨が降りだした

天井に衝突する雨音が妙に辛気臭かったのさ

2/2/2024, 2:04:02 PM

マイ・スマイル・イズ・カバード・イン・ブラッド


私は地下鉄の最終便に乗りました
でも、家に帰るつもりはありません
時刻はもうすぐ日付が変わろうとしています
私以外、誰も車両に乗客は居ませんでした
電車は走り出しました

しばらく私は軽く目を閉じて考えます
なぜ彼らは知恵の実を食べたのかを
なぜ政府は月面に到達したなどと嘘をついたのかを
しかし、私にはどうでもいいことです
この世界は退屈なだけですから

私は仮面をつけています
笑顔が描かれた子供の落書きのような仮面です
ですが、仮面の下ではいつも泣いています
悲しいからではありません
血の涙が溢れてくるのは、きっと孤独だから

今日も涙が流れて止まりません
どうせなら泣き声をあげてみたかった
私の血にまみれた笑顔はさぞかし不気味でしょう
自殺する勇気なんか持ち合わせてやしない
でもどうせ、明日の朝には忘れています

ところで、電車はいつ止まるのでしょうか?
もう、ずうっと長いこと走り続けています
暗闇の中を
暗闇の奥へと
それは心地好く、少し不気味で不安定な、帰路

2/1/2024, 3:53:08 AM

プレイス


ここはひどく息苦しい
繰り返されるパニック発作

何かにすがっていたい
神じゃなくてもいい

止まないエンジン音と動悸
ここはひどい場所だ

僕は生きている心地がしないんだ
ただの部屋なのにこの場所では溺死しそう

連れ出してくれ
僕をチョコレートの殻の中から

1/31/2024, 9:30:59 AM

フェイス


一度だけでいい
ただ一度だけでいいんだ

君の顔を見せておくれ
僕と彼女のどちらに君は似ているんだい?

お願いだよ
君は間違いなく僕らの宝物なんだ

どんな宝石よりも愛おしく思うよ
たとえそれがすぐに砕けてしまう宝石でも

お願いだよ
どうか神様

彼女も彼女のお腹の中の君も
どうか行かないで、せめて顔だけでも

1/29/2024, 10:58:20 AM

アウトサイド・ザ・ホスピタル(フォー・フレンズ)


君は行ってしまったんだね
エスカレーターに乗って一人でさ
この薬品臭い病室から出ていったんだ
だけど君の気配はまだ残っている
君がいないだけで世界は我が物顔で廻ってるんだ

サングラスをかけた警官
花束を抱えた老婆
ブルーのキャップの少年
エリート風のビジネスマン
黄色いタクシーの運転手

この世界に君はもう居ない
あり得ないくらい普通がそこにあるというのに

君は僕のこと忘れてしまった?
僕は君を忘れたりなんかしない
たとえあの病院を電車の窓から見たとしても
忘れられるはずがないんだよ
ありふれた愛がまだあるのだから

サングラスをかけた警官
花束を抱えた老婆
ブルーのキャップの少年
エリート風のビジネスマン
黄色いタクシーの運転手

落ちてきそうな真っ青な空
昼間の空に浮かぶ白い月
キノコ雲
流氷が漂う海辺の電波塔
懐かしい誰かの告別式

でも僕はまだエスカレーターに乗れない
天の国の使者がそれを許してくれないんだ

高速道路沿いで君の夢を見た

世界は我が物顔で廻り続けている。

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