John Doe(短編小説)

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8/6/2023, 2:27:22 AM

チェス


二人の男が席に着く
一人は老人、もう一人は中年の男性
そしてお互い向かい合って座る
テーブルの上にはチェス盤
なにやら言い争った後、老人がコマを動かした
周りの人は見てみぬふり
それでも二人の様子を慎重に伺っている
次々とコマは動き出す
その過程で死ぬコマも出てくる
老人が反則をして、倒したコマを味方にした
コマを捕虜にしたんだ
たちまち周りの人は彼を批判する
でも誰も実力で止めることはない

チェス盤の上では血が流れている
真っ赤な血は水溜まりのようになる
遠い異国で実際に起きていることだ
どちらかがキングを討ち取るまで戦いは続く
キングを倒したところで何が得られるのか
失ったものの代償にはならない
これが単なるゲームなら誰も傷つかない
傷だらけのチェスゲーム

8/4/2023, 11:23:33 AM

アナーキー


街は偽善者で溢れかえっている
誰も彼もすまし顔
歩きながらのスマホはトラブルの元さ
大通りを行き交う車はどれも白と黒ばかり
イカしたサングラスの学生は歩きタバコ
騒音、クラクション、誰かの怒号
ああ、なんて素晴らしいことだろう!
僕は今とても良い気分なんだ
こんな光景すら許せてしまうよ
なぜなら今僕は青春を生きているから!

つまらないことで腹を立ててちゃいけない
ここがそんなに嫌なら出ていけば解決さ
昨日彼女が髪を金色に染めたんだ
似合ってないなんて言えないよ
僕は髪を染める勇気すらないからね
笑っちゃうような些細な悩み事さ
世界にはこれでもかってくらいの地獄がある
僕らはまだ遥かにマシなんだ
地獄を見ずに楽観して生きていけるんだから
ああ、僕は今青春の中で輝いている!

昔もむかし、大昔のこと
僕らの先祖は刀で殺し合っていた!
何度も血なまぐさい争いの歴史があって今がある
僕らはとてもラッキーなんだ
たぶん今が歴史上最も幸せな時代だろうから!
僕はこの青春を無駄にしたくない
とにかく、アナーキーに生きよう
それが若者の使命なのだから
世界がこんなでも笑ってやるぞ!
そして声を大にして叫ぶんだ

『ざまあみやがれ!!』

大気汚染がなんだ!
経済不況がなんだ!
国際情勢がなんだ!
交通渋滞がなんだ!

アナーキーにこの青春を謳歌してやる!


8/4/2023, 2:52:58 AM

リトルボーイ


うだるような夏の朝
司令部に伝令が入った
『作戦は完了した』と
重要な任務を遂げ、家へと帰還する
家族の笑顔を見るために

暗黒の空の下で何が起きたかなんて知らない
日曜日のミサは忘れずに参加する
そして寝る前に神様に祈りを捧げる
8時15分にテレビを見ていた
ようやく全てが終わったと思った

僕には関係のないことだ
ガールフレンドさえいればそれでいい
僕は無邪気な少年だった
70年前からずっとそうさ
それが今でも僕を苦しめている

いつも思う
どうしてこうも歴史は残酷なのかと。
そして再び惨劇を繰り返す人類の愚かさを。

8/3/2023, 4:31:53 AM

メトロポリスで見つけて


君はメトロポリスの住人
ミステリアスなこの都市で生まれ育った
きらびやかな摩天楼
巨大な沿岸工場地帯
芸術科学の臨界点
誰もが思い描く理想郷
それがメトロポリス

君は愛のテレパシーを僕に送る
空飛ぶクルマで会いに行くよ
むき出しの鉄骨の山を越え
ビルの谷間をすり抜け
酸性雨の嵐の下を飛ぶ
メトロポリスへ
愛の理想郷へ

君を狙う悪を光線銃を撃つ
おちおちしていられない
都市の中心に聳え立つタワー
そのてっぺんに君が囚われている
僕は必死に螺旋階段を昇る
武装した兵隊たちが行く手を阻む
構うもんか、僕はただ君に会いたいだけなんだ

頂上の小さな部屋に君はいた
そして僕を見て微笑んだ君を
強く強く抱きしめた
メトロポリスで君を見つけた

8/2/2023, 4:08:09 AM

渡り廊下


無機質な空間に、無意味な渡り廊下
私はそこを歩いている
どこへ向かっているのかわからない
進んでいるのかさえ明確ではない
廊下の先は空っぽの部屋
さらに進むとまた廊下が現れる
そしてまた部屋が。

もうずっとこんな調子なんだ
ひどく疲れた
建物は絶えず増築を繰り返している
まるで誰かさんの人生を見てるようだ
渡り廊下から空が見える
安っぽい、作り物の空がペイントされてるみたい
意味を持ってないから
意味を持つ理由がないから
不安はないし、希望もない
シーシュポスの神話を思い出す
これは試練なのか、罰なのか
考えることすら、私を疲れさせる

歩いても立ち止まっても、建物は広がっていく
ぼうっとしてても時は進む、人生のように。

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