John Doe(短編小説)

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3/25/2023, 2:20:45 AM

通常運行


私は極めて冷静だった。
体調は整っていたし、腹は減っていなかった。
しっかり眠れたし、これといって問題は全くない。

ただ、目の前に広がる光景だけは受け入れ難い。

赤。

部屋一面真っ赤の。

それは本当に美しく、残酷な通常運行。

3/24/2023, 8:24:09 AM

大人の夢


大人になれば、何でもできると思っていた。
誰もがたくましく生きていけると思っていた。
大人は本来完璧なはず。

でも、そうじゃなかったみたいだ。

憧れていた酒は気持ち悪くて飲めなかった。
憧れていたタバコは何もカッコ良くなかった。
免許を取っても車になんか乗りたくなかった。
異性と恋をしても疲れるだけだった。

鏡を見てみろ。
目の前のやつれた、弱々しいその姿がお前が夢見ていた『大人』だ。
日々のストレスを引きずり。
引きこもるようになり。
何もかもが破綻した今のお前は。
今のこの自分が、大人だって?

悪い冗談じゃないのか?
本当の自分はまだ幼い子供で、きっと悪夢を見ているに違いない。

なあんだ、ただの夢だったのか。

こんなヤツが、ぼくのはずじゃない。

ぼくはまだ、こども。
そうだよね。
そうだといってよ。
ああ、はやくがっこうにいかなきゃ。
せんせいが。ともだちが。
ぼくをよんでる。

だれか、たすけてくれ

3/22/2023, 11:12:39 PM

もう一度生まれてきたら


もう一度生まれてきたら
まず君に会いたい
もう一度生まれてきたら
悲しませたことを、謝りたい
もう一度生まれてきたら
今度は前よりもっと優しい人になりたい
もう一度生まれてきたら
私を支えてくれた人達に感謝したい
もう一度生まれてきたら
自分の限界を決めつけず、ただ前進したい
もう一度生まれてきたら
空が青くて、星が輝いていたことを確かめたい
もう一度生まれてきたら
もう一度生まれてきたら
君を傷つけずに、守ってあげたい

だから、私にもう一度チャンスをください。

3/17/2023, 9:19:49 AM

レコードの針とあなたと


私はレコードをかける。
華やかな音楽が流れ、憂鬱な夜がロマンチックなものに変わる。
いつの間にか、あなたが部屋にいた。
私の手を取り、ダンスへと誘導する。
私は踊れない。
それでも構わないと、あなたは私をリードする。
あなたはとても暖かい。
あなたの温もりを感じていると、つい足を踏んでしまった。
気にしないでくれ、とあなたは微笑む。
レコードの針のノイズ音がとても切ない。
曲が終わってしまうことが悲しい。
でも、いつまでも踊り続けることはできない。
曲が終わりに差し掛かる頃、私は踊るのをやめて、あなたの腕の中へと身体を預けた。
あなたは微笑んだ。
私は何度も何度もあなたの名前を呼んだ。
素敵な夜だった。

















レコードは、もう鳴らない。
針は折れてしまっている。
道路の真ん中で私は横たわっていた。
頭から血だまりができている。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
あなたが誘導してくれるのを、待っていた。

3/15/2023, 1:57:13 PM




僕は浮き沈みを繰り返す。
左に、右に、上に、下に。
とても気持ちが良いんだ。
感じるのは恍惚だけ。
僕の身体は、とっくに朽ちたんだ。

悲しみの果てに、涙は川になった。
僕はそこをずっと流れている。
透明な涙の川に、僕の真っ黒なハートが溶け込む。
そして川は黒く染まっていく。
全て混ざり合っている。
脳も、心臓も、神経も、細胞も。
ここはいたって平和だよ。
もう失うものは何一つないから。

母親の子宮の中にいるようだ。
この切ないような安心感を、僕は覚えている。
そこは羊水に満たされていた。
世界でいちばん安全な場所だった。
ああ、母さん。懐かしい響きがする。
母さん。母さん。
声を出そうとしても、泡が水面へと昇るだけ。
心が溶けてしまいそうだ。
大勢の人間が僕を覗き見ている。
その中に、彼女の姿。
その中に、幼い僕自身の姿。
僕を愛してくれたたくさんの人々。
さようなら。
でも、もう会いたくないかな。二度と。

僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく
僕は流れていく

緩やかに。

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