*;
壊れてしまえ。
たった1つの希望
昨日、私は父と口論になった。
そして酒に酔った父は私を殴り、蹴飛ばした。
私は鼓動に合わせて脈打つ痛みに悶えていた。
床に垂れた自身の血液の赤さと、生臭い鉄のような味を覚えている。
おかしいな。
私は昔を思い出す。
ほら、蘇ってきた。
私の頭を優しく撫でる父が。
私に絵本を読み聞かせてくれた父が。
私のためにお弁当を作ってくれた父が。
希望。
私が忘れない限り、今日も私の大好きな父が微笑みかけている。
欲望
私はあなたを渇望していた。
心の底から、あなたを求めていた。
多くの獣が群がるように、
様々な絵の具が混じり合うように、
あなたを想う感情が、
溶けて。
溶けて。
私の中に流れ込んできて。
疼いて。
息苦しくなって。
私は
遠くの街へ
男のいた街はことごとく崩れていた。
廃墟と化したその街に男ひとり以外の人間は見当たらない。
無数の瓦礫。
干上がった水路。
むき出しの鉄骨。
灰色の空。
ノイズのような風の音。
男は人を求めて街を出た。
より遠くへ、灰色の世界を歩く。
線路の脇に携帯電話が落ちていた。
コール音が響いている。
男は電話を取り、耳元に寄せる。
賑やかな人々の声が聞こえる。
「そこに誰かいるのか」
男は返答を祈るように待っていた。
暫くして、反応があった。
「私はその街にいる。あなたを、皆はずっと待ってる。お願い、早く私を見つけて」
電話が途切れ、男は走り始めた。
現実逃避
ドアを開けて外へ出ても、そこにいるのは私。
どんなに着飾ったって私は私。
何も変わらないし、目が覚めれば現実にうんざりするだけ。
生きてる間に逃げ道なんてない。
次から次へと苦痛の種は芽生えてくるばかり。
摘み取ればいい? キリがない。
だから私はナイフを手に入れた。
本の中にこっそり忍ばせておいたよ。
いつでも使える、魔法のナイフ。
奇跡が起きないなら、起こせばいいんだって。
そう気づいたんだ。