John Doe(短編小説)

Open App

遠くの街へ


男のいた街はことごとく崩れていた。
廃墟と化したその街に男ひとり以外の人間は見当たらない。
無数の瓦礫。
干上がった水路。
むき出しの鉄骨。
灰色の空。
ノイズのような風の音。

男は人を求めて街を出た。
より遠くへ、灰色の世界を歩く。

線路の脇に携帯電話が落ちていた。
コール音が響いている。
男は電話を取り、耳元に寄せる。
賑やかな人々の声が聞こえる。

「そこに誰かいるのか」
男は返答を祈るように待っていた。
暫くして、反応があった。

「私はその街にいる。あなたを、皆はずっと待ってる。お願い、早く私を見つけて」

電話が途切れ、男は走り始めた。

2/28/2023, 12:12:48 PM