さあ読みかけの本を閉じて。
飲みかけのボトルを戸棚にしまって。
アイロンがけ前のシャツをクローゼットにしまったなら。
静かにさよならを言うんだ。
終わりにしよう。
この渇いた旅路を。
この暗く曲りくねった道を。
この苦しく、永遠に思われる時間を。
独りぼっちの部屋に響くこのレコードが一周した時に。
この一杯を飲み干した時に。
この火が消えた時に。
終わりにしよう。
僕はどうしようもなく劣等感にまみれた人間だ。
一人でいると、直ぐに自分を卑下してしまって。嫌になって。辞めてしまいたくなって。
結局気づくといつも、暗い部屋のすみっこで、グラスの中の琥珀色の液体と見つめ合ってしまう。
自分とは何だろうか。なぜ自分は存在しているのだろうか。何のために......。
答えのない自問自答。堂々巡り。
こんな僕でも、時々、この終わりのない対話から抜け出せる時がある。
君といるときに感じるこの感情。 そうか、これが優越感か。
他者を通してしか自己を認識でき無い。そんな弱い存在でもいい。
僕が君を特別な気持ちにできるのなら。他者には代替できない存在でいられるのなら。
それが僕にとって一番の優越感だ。
君に素の自分を見せられたのは、終わった後だけだった。
僕は君に僕のことを好きでいてほしくて、嫌われたくなくて。いつも君の前では、「見せたい自分」を演じてしまっていた。
スフマートで暈された自分を自分でも好きなることは出来なくて、一緒にいる間、ずっと心にはほつれがあった。
君があの晩、ドアを閉めた後から、不思議と心が軽くなって。月明かりに照らされた僕の足元には、久しぶりにハッキリとした影が出来ていた。
最初から正直でいたならば、もっと好きになれたし、好きになってくれたのかも知れない。
幾分前の事だったろうか、LINEに送信取消機能が追加されたのは。
深夜、静かな部屋、濡れたままの髪で横になりながら、あの人に送った、単語の連なり。
「好きだよ。」「愛してる。」
朝になってあなたが気づくまでの間、送った事を何度も後悔する。
あの気持ちは、もう味わえない。