貴女よりわたしの方が相応しいと思っていた。
不器用で、凡庸で、天邪鬼で、秀でているところなんて何にも無い。
成績も、家柄も、人望も、全部全部わたしの方があるはずだと思っていた。
あの人の隣に居るべきは、貴女じゃなくてわたしだと思っていた。
でも、それは上辺だけの幼稚な優越感でしか無かった。
本質が見えていなかった。
あの人と貴女の間にある本当のものが視えていなかった。
わたしより劣っているはずの貴女の方が、よっぽどあの人を理解していたなんて知りたくなかった。
月下の明かりは人々を照らす。
まるで人の営みそのものが星々になったかのように、違う輝きを日々灯す。
陽の下の明かりは届かない。
陽こそが街を照らす明かりだから。
サイコロの出目。
円周率の桁数。
一番大きい素数。
ヒトが産まれる前の星の営み。
ヒトが終わる時。
選ばなかったもしもの未来。
きっと、確かなものを神様だけが知っている。
例えば、互いの小指から伸びている赤い糸の先が違ったとしても、切り落として結び直してしまえば良い。
身も、心も、赤い糸を喰い込ませて、肌に奔る赤い傷すら繋がりに変えて、決して離れないように雁字搦めにしてしまえば良い。
運命? そんな不確かなものに身を任せてないで。
君を僕から離れられなくして、血すら交わるほど深みに君を連れて行くことが出来たなら。
ほら、勝手に繋いだ結び目なんて、君の胎に隠してしまえばもう誰にも判らないよね?
もし幸せになれるとしたら、今すぐじゃなくてい良い。
昨日までの自分に、深い沼の底まで脚を引かれて沈められてしまいそうだから。
明日明後日も変わらぬ地獄が続くとしても、いつかほんの少しずつでも好転してくれればそれで良い。
少し顔を上げれるようになれば良い。
少し息がし易くなれば良い。
少し視界に光が差すようになれば良い。
少し一歩を踏み出す足が軽くなれば良い。
そうしていつか、過去が追い掛けて来れなくなるような何処か遠い場所で、幸福が訪れてくれれば良い。