決して叶わない貴方への気持ちが思い出になった時、
ようやく私は、失恋するのでしょう。
正直に生きることが美徳だと言うのなら、僕はそんな生き方は一生出来ないだろう。
快適な生き方と正しい生き方は決して等号で結べない。
嘘は快適に生きる為の処世術だ。笑顔は本心を隠す為の鎧だ。言葉は身を守る為の手段だ。
だから正直者過ぎる君のことを、いつだって生き辛そうだと思ってしまう。
思ったことをそのまま口に出してしまう君。
喜怒哀楽がそのまま顔に出てしまう君。
他人と衝突することになっても、決して自分の感情を曲げることが出来ない君。
そんな君がたまに吐く嘘は、正直過ぎて傷付けてしまう自分の心を隠す為の強がりばかり。
その不器用で正直な生き方が見ていてもどかしくて、
嘘吐きな僕には、眩し過ぎて羨ましい。
今日のそちらの空はどうですか。こちらの天気は良好です。
当たり障りの無い挨拶で書き出した手紙を、失敗作だと破って捨てた。ちょうど明日はごみ収集日だった。
今日は日差しが心地良いです。君と初めて会った日を思い出します。
思い出を綴ってやっと書き上げた短い手紙を、紙飛行機にして窓から飛ばした。行方は見届けていない。
今日は朝から雨が降っています。君が居なくなった日を思い出します。
続きの言葉が浮かばなかった短い手紙を、君との最後の思い出の場所で火に焼べた。灰は湿った風に吹かれて空に舞った。
別に天気の話がしたいわけじゃないのだけれど、手紙の書き出しにはこういう挨拶が付き物かと思って。
雲の上は、いつも晴れているのでしょうか?
雲の下の僕はいつまでも、君の居る空に想い綴っています。
いつも必死に、見て見ぬフリをしている何かがある。
歩みを止めたら追い付かれそうな、振り向いたら呑み込まれてしまいそうな。そんな、得体の知れない何かが。
追い付かれないように、脚がもつれても走り続ける。
呑み込まれないように、俯きながらでも前を目指し続ける。
決して離れることの無い影に過去を隠しながら、光の差す未来を思い描きながら。
どちらが悪かったなんて話ではないけれど、どちらかが謝って簡単に済んでしまうような気持ちなら、きっと私たちは互いを傷付けてなんかいない。
貴方が私をこの上無く大切にしてくれていること、本当はちゃんと解っている。
それでも貴方を傷付けてしまったのは、貴方のその優しさがどうしようもなく私を傷付けていたのだと伝えたかったから。
全部全部、私の我儘だって解っている。
それでもこのたった一言を躊躇ってしまうのは、ただ意固地になっているからじゃない。
謝ってしまったら、優しい貴方はきっと赦してしまうから。
貴方を傷付けた酷い私を、どうか赦さないで欲しいから。