あいつの口を塞ぐ知恵
【お題:今一番欲しいもの】
私の名前は、読み間違え
られることも多いけど。
この名前に、感謝している。
あなたは、この世で特別な子だよと
まだ本当に若かった、両親が
考えて考えて、名付けてくれたのだから。
そうして、私の妹にも
同じ漢字が使われている。
名前に込められた想いは
人様々だろうけど。
「お腹の赤ちゃん」と、けっこうな
人数の人たちが最初はそう
呼ばれていたんじゃないかな。
そう思うと、少しおかしくて
ふふっと笑ってしまう。
【お題:私の名前】
目隠ししたのは
だーれだ?
子どものような、大人のような
小さな鬼が時折…ひょこっと姿を
見せては、くすくすと笑う。
お耳を塞いだのは
だーれだ?
いったい、何の為に現れては
私に問うのだろう。
あと一歩踏み出せば
私は、きっとこの世界から
居なくなるのに。
じわっと背中があたたかい。
小鬼から滴る、涙が私の背中を
濡らしているんだ。
その悲しみが伝わって
私の視界もぼやけてゆく。
そして、また朝が来てしまった。
目の中で揺れる涙が朝日に反射して
きらきらと…眩しい。
小鬼は、また消えていく。
視線の先には、美しく生きづらい
世界が広がっていた。
【お題:視線の先には】
どうして、私は私なのだろうか。
私は私に、きっと誰よりも厳しくて
到底自分を愛しているとは
言えなくて。
私だけが、私を不幸にしようとしている。
本当は、誰よりも
大事にすべきだと思う。
泣くことも、笑うことだって
望んでいる。
そんな私を、私だけが知っている。
【お題:私だけ】
遠い日の記憶は
チョコレートアイス
夜の病院、大き過ぎるスリッパ
寒い冬の夜
父親の運転する車から
ぼんやり、外を眺めれば
街の明かりが流れていく。
3歳になったばかりの私の
記憶は、断片的で
ただ、あの日は私が
お姉ちゃんになった日だったのだ。
久々の、お母さん。
初めて出会う小さな赤ちゃん。
父親の大きな手が私の頭を撫でて
帰り道に、チョコレートアイスを
食べたのだ。
口の中で、じんわり溶けてゆく
チョコレートの味と、微睡んでゆく
帰り道の景色。
それが、私の遠い日の愛おしい記憶だ。
【お題:遠い日の記憶】