昼も夜も問わず、君に会いたくて仕方がなくなった。そんな自分に気付いたのは、君と付き合う前だった。
そのことに気付いたときは何を、と不思議に思ったよ。仕事で休日以外は顔を合わせているのに何を、と。
けれど、会いたい気持ちは本物で、君に会えない日は胸の奥が、きゅう、となるんだ。君の声が聞きたい。君の顔がみたい。君の息吹を感じ取りたくて仕方がない。と、この変化にはほとほと手を焼いた。
君との間には色んなことがあったけど、毎日君に会いたいから告白をしたというのも強ち嘘じゃないんだ。
僕の場合は、これが恋だと自覚するのに時間がかかってしまったけど、なんとか自分の気持ちを掴んで、君に打ち明けることが出来た。
結果、今では婚約者だ。
でも今でも、君に会えない日はあるし、結婚してもそれは続くだろう。
君にも君の研究があるしね。
だから僕は、研究の合間、君を思ってはラジオや読書や野外探索で気を紛らわす事にしているよ。
僕は日記を付けている。主に植物の観察記録と星々の運行状況、そして彼女の日記だ。
彼女の――――婚約者の記録はいつ頃つけ始めたのか、正確なところは過去の日記でも定かではない。間違いなく婚約する前なことは確かだが、いつ付け始めたのか、はじめは一行にも満たない内容だったのが徐々に増えていったことだけは覚えている。
今では植物と星の観察を押しのけて、彼女の観察記録が幅を利かせている始末。これは自分でも驚きの結果だ。
僕は日記を論文の種にすることが多い。
星々のこと、植物のこと、発見したことやちょっとした推論を論文として纏めて投稿するのは面白い。
彼女の観察記録の論文もそのうち書こうと思っている。
でもこれだけは公には発表しない。
彼女にも、彼女の観察記録を付けていることは僕が死ぬまで内緒だ。
でも、折角論文とするのだから、僕が死んだ後彼女だけに届くようにしようと思っている。
それまでは、僕だけで閉ざされた日記だ。
赤や黄色に色づいていた木々も茶色く染まり、落ち葉が靴裏に楽しい季節。
木枯らし吹きすさぶ中を僕は歩いていた。
背が丸まりがちになるのは薄いジャンパーの中に木枯らしが入り込むから。首元にマフラーを巻いても、両手に手袋を嵌めても、服の隙間という隙間から風が吹き込んでくるのは勘弁してほしい。
まだ日差しは温かいのが救いといえば救いか。
のどかな晩秋の夕暮れ時。
(あー肉まん食いてー)
足早に抜けた公園の先には何時ものコンビニがある。脚が吸い込まれるように店内に向かったのは言うまでもない。
熱いコーヒーと肉まん。
これからの季節の必需品だ。
美しい物と言って真っ先に私が上げるものは夕空だ。
特に少し曇った夕時、あたり一面が薔薇色に染まる時の夕空は、筆舌に尽くしがたく美しい。
よく晴れた日の夕空もそれはそれで美しいが、この、大気までを薔薇色に染める夕空は中々お目にかかれない。
私も人生で一度か二度、出会ったことがあるぐらいだ。
私の大切な思い出の一つ。
この世界は、今、大きく変わろうとしている、らしい。
シンギュラリティ。
AIが人間の能力を完全に超える日が、もう10年以内に迫っている、とか。
そうなったらいま人間がやっている仕事は――――創造性のあるものからお店の定員から土木工事から何から何まで、最終的にAIに取って代わられる、のだそうだ。
人間の仕事はなくなるのだとか。嘘か真かは未来になってみないと判らないけれど。
「でも今はシゴトがある」
だから私は求人票を見ている。ああ、早くシゴト無くならないかなあ、と思いながら。
でもシゴトが無くなったら人間の価値はどこにあることになるのだろうか、とも思うのだ。
趣味の追求になるのだろうか? そうしたら楽しいだろうけど、本能に忠実に生きることになるとしたら動物と変わらないのでは?
この世界の未来は人間にとって明るいのか、どうか。