「あまーい」
黄色い房をまた一つ口に放り込む。噛めばじゅわっと溢れ出す果汁には全く酸っぱさがなく、口の中には芳醇な甘さだけが広がる。
これは当たり、だ。
昨日はちょっと酸味が強いものを引いてしまったが、今日はツイてる、と思う。
みかんは12月半ば辺りに箱で大量に買っておくに限る。そうして毎日一人につき一個ずつ揃って食べるのだ。それが我が家のルール。
大量に買っても一冬保たないのは四人家族だから。
だけじゃない。
大掃除は大変だった。疲れた。
今は家族は買い出しで家にいるのは私一人だけ。
こうして盗み食いしている奴が、いるからだったりする。
12月27日、仕事納め件社内の大掃除。
それから1月3日までが社会人としての冬休み。
うん。学生時代と比べると短い。
だから思いっきりダラダラしたい。
28日から三が日までは大雪は降らないそうだから雪かきの手間もなく過ごせる。
29日大掃除ついでに酒とご馳走しこたま買い込んで新年寝て過ごそう。
コロナまだ怖いから実家に帰る予定もないし。
あ、でも二年参りはしたいな。
コロナ怖いのに。
我ながら勝手だけど。
「うーさびー。冷てー」
小雪が舞う中、俺は自転車をアパートの駐輪場へとめた。
自転車の鍵をかける手がかじかんでうまく動かない。手の甲まで真っ赤な素手の節々を擦り合わせて、はー、と息を吐きかける。
鍵をかけ終えて早々に両手をジャンパーの両ポケットに突っ込み、逃げるようにアパートの入口に向かった。
ジャンパーやマフラーは何となく用意しようと思うが、手袋は中々気が回らない。毎日出掛けに、あ、と見つけるのを忘れた事に気付く。
「そろそろ限界だよなー」
素手通勤も。
昨日も思ったことを今日もまた思いながら、今日こそは押入れの奥に眠っているであろうナイロンだったか毛糸だったかの手袋を引っ張り出そうと決意してーーーー先に風呂の準備をしようと思い立つ。その後は冷えたビールで一杯。You Tubeを見ながら飯を食べてーーーー。
なんだか明日も素手通勤な予感がひしひしとしてきた。
俺の手が赤切れるより先に手袋を引っ張り出せるかは、未知数だ。
近所の家が空き家になった。しかも2軒も。
3軒先の家は新しい家族が引っ越してきた。挨拶に一昨日きたから分かった。
庭の柿の木が今年切られた。病気になったそうだ。
僕の知ってる故郷の景色は山も川も町並みも変わらないように見えるけれど、中身は少しずつ変わっていく。
じゃじゃーん、という声は心の中だけで。私は起き抜け一番に昨日枕元にセットしておいたクリスマスプレゼントのリボンを解いた。真っ白な箱の中には12月中旬に選んだ小さな星型のペンダントが鎮座している。
(ヘヘへー。クリスマスプレゼント!)
自分にクリスマスプレゼントを自分で送る。
30歳を超えてから私は完全に吹っ切れていた。
小さな頃はサンタさんと言う名の両親がくれたプレゼントは、大学生になった時から貰うことはなくなった。
大学は友人たちとクリスマスパーティーでプレゼント交換して楽しく過ごした。でもそれも就職したら終わり。
それからは忙しすぎて友人達とも疎遠になった。
恋人の一人も作れなかった。
そうして迎えた30代のある時。
私は、私にプレゼントを贈ることにした。
何故って、面白そうだと思ったから。まあ誰もくれないからヤケクソとも言う。
これが思った以上に選ぶのもわくわくするし一品物との出会いもあったりで楽しくて、今年もまたこの習慣を続けている次第だ。選ぶものは少しお高めの貴金属が殆どで、自分のセンスで選ぶからハズレがないのも嬉しい。
誕生日プレゼントは両親や友人達から貰うけれど。
それも勿論嬉しいけれど。
自分の為だけの自分への高価なプレゼントは、私が考えるに、年に一度。クリスマスならではじゃないかと思う。
サンタがいるという聖なる夜、ならでは。
なのでは?