「ただいま」
小さく呟いて肩掛けバッグをリビングの机に下ろすと、不意にため息が零れた。
今日は12月24日。クリスマスは明日だとしてもその前夜祭。鶏の脚を食べてシャンパンで乾杯ぐらいしても良い日には違いない。
なのに、何も用意しなかった。
小さなモミの木を模したツリーのおもちゃは勿論誕生祭のケーキも。
11月末の失恋は私の心からそういったものを遠ざけていた。
失恋と言っても他愛ない、職場で出来たスキナヒトに他に彼女がいたというのを人づてに知っただけ。初めから脈も何もない片一方の恋。
進展する気もさせる気もなかった想いだと思っていた。なのに、思いの外、尾を引いている。
「どうにかなりたかったってことなのかな」
暗い声が漏れて、それで、また泣けてきた。最近はいつもこう。街が煌めくにつれて帰ったあとの慟哭が酷い。
買ってきたのはコンビニの弁当と飲み物ぐらい。
リビングのソファにばふんと倒れ込む。
今日はもう、今日ももう。このまま寝てしまおうと思った。
明日は日曜日。
平日みたいに化粧を落としてなくてしかも泣いたあと眠ったせいでぐちゃぐちゃの顔を出勤前に整える手間もないのだけが唯一の救い。
イブの夜のプレゼント。
クッションに顔を埋めて、泣く。今日も泣き疲れてねむるんだろう。
外は雪が降っていた。夜半にかけて降り続くそう。
きらびやかの影で。
静かな、静かなクリスマスイブ。
年賀状って一種のプレゼントだと思うの。
とっくに出す相手がいなくなった今、僕の中には彼女の言葉が蘇る。
思えば貰ってばかりで返事が出せない僕に彼女はじれていたんだろう。
そんなこと、疎遠になって初めて気づいた。
毎年届いていた一通のプレゼント。
僕は恵まれていた。
今は成すべくもない。
せめて、この先出会う友人達には、年の瀬にプレゼントを送れる人間になりたいけれど。
クリスマスプレゼント?
それはこんな僕には、まだまだ荷が重すぎる。
(あーいいお湯ー)
狭い浴室いっぱいに広がる柚子の香り。私はたっぷりお湯の張られた浴槽で大きく伸びをして深呼吸した。組んでいた指を解くと、じん、と身体の心から熱がせり上がってきて気持ちいい。
(冬至は昨日だったんだけどね)
一日遅れの柚子湯。しかも単なる入浴剤だったが満足。満足。日頃の疲れを癒やす浴室が、更に癒やしの空間に変わったのだから。
(明日も柚子湯にしちゃおっかなー)
なんちゃって。
私はもう一度大きく深呼吸して、緑色に染まったお湯を両手でくゆらせる。