11.Kiss
恥ずかしいものだと思っていた
だから、驚いた
わたしが幼いころ
王様が、あの日、即位した王様が、
民衆の前で恥ずかしげもなく
皇后さまと
キスしているのを見たとき―――。
幸せそうだった
そうか
恥ずかしいことじゃないんだ
いいな
わたしもいつか
あんなふうに幸せな瞬間を味わいたい
でも、そのときは、大切なひとと
ふたりきりがいいな
10.1000年先も
貴方と一緒に奏でた笛の音
貴方と食べた宴の料理
貴方と見た桜の花
貴方の為に詠んだ和歌
貴方の前で舞った舞
貴方をかばった若い命
貴方の為に捕まった命
1000年先まで残るといいな
9.海の底
遠い昔、貴方は海の底に沈んだ
夏椿のように儚い命
涙のようにまたひとつぶと
落ちて、堕ちて、おちて―――。
悔しかった
貴方と誓ったあの夢を
果たせずに別れてしまったことが
悔しかった
貴方のそばにいながら
貴方を支えてあげられなかったことが
聞こえますか
静かな月夜の笛の音
遠い昔、貴方と奏でた笛の音
一ノ谷の水は今日も冷たい
琵琶の音に乗って
いつまでも残ろう
もう二度と同じ過ちは繰り返さない
青い海に誓おう
静かに息をしよう
違う海に沈んでも
海の底はつながっている
海の底で会えるのだから
「さっさと首をとれ」
8.みかん
つめたい。
ヒヤッとした感覚が、肌を通じてみかんから伝わってくる。
雪だ。
橙に色づいた甘酸っぱい雪。
それは体温にとけて、なくなる。
貴方を想う私の心のように儚い。
7.何でもないフリ
何でもないフリをするのには慣れています。
貴方に心配をかけたくなかったから。
貴方に迷惑をかけたくなかったから。
一日中、何でもないふりをしていました。
心がぎゅうっと締め付けられて苦しかった。
「痛くなんかない」
転んでも泣きませんでした。
転んでも痛がりませんでした。
ただ貴方に心配されないように。
ただ貴方に迷惑かけないように。
ただただ惨めで虚しかった。
わたしの気持ちに気づいてください。
わたしの叫びを聞いてください。
一度でいい。
大好きな貴方に心配されてみたかった。
大嫌いな貴方に迷惑をかけてみたかった。
僕の心をこんなにも傷つけるなんて貴方は最低だ。
僕を苦しめる貴方なんて大嫌い。
でもそれ以上に、優しくて温かい貴方が大好きです。
そして貴方は言いました。
「なにを考えているの。」
答えなんて聞かなくても分かっているでしょう。
「何でもないよ」