【お次は終点、宵車庫。宵車庫。お降りの方は呼び鈴を3回押してください】
微かに耳に入る機械音で、意識が浮上する。
仕事帰りのバス内、眠気でうつらうつらしていたら、うっかり終点まで来てしまった。
やがてエンジン音が小さくなり、車内灯がじわっと白からオレンジに変わった。
すぐに降りなければ、とアナウンスで伝えられた''呼び鈴''を探すが見つけられない。困った。
まぁしかし、既にこのバスは終点に着いていて、乗客は私だけ。鈴を鳴らさなくても降ろしてくれるか。
乗降口へと一歩、二歩、踏み出したところで扉が閉まり再びエンジン音が大きくなる。
あれ、あれ?終点じゃなかったっけ。明日も仕事なんだ、はやく帰らないといけないのに。
「すみません、運転手さん」
…姿が見えない。誰もいない。
背中に冷や汗が滲む。私は何に乗っていたんだろう。
寝起きの頭は上手く回らなくて聞き流してしまったが、聞き慣れない停車場所とアナウンス。
どこなんだ、ここは。
『…あぁ、お客さん。』
不意に背後から、声。肩が跳ねる。
『驚かせてしまって申し訳ありません。こんな所に居たんですね、あなたを探していたんですよ。』
恐る恐る首を回し振り返ると、上背のある、眉目秀麗な男が立っていた。
『見知らぬ場所に着いてしまってお困りですよね。僕がお助けしましょうか。』
すごく驚いたが、助けてくれる…のか。
私は今、ここはいったい何処なのか、何故このバスは運転手不在なのに走っていたのか、誰もいないはずの背後に何故制服を着た男がいるのか、そして彼は何故私がこの場所を知らないと知っているのか…とても混乱している。
ここで得体の知れない男に助けを求めるのも怖い。でも何よりこの不安から逃れたくて、口を開く。
「…お願いします。」
途端、酒に酔った時のように目が回る。真っ直ぐ立っていられず男にもたれ掛かった。
『承知いたしました。きっとここより安全な場所に送り届けます。僕がついていますから、ご安心ください。』
男の声が痛いほど頭に響く。耳に届くのは優しさ溢れる声なのに、心臓をぎゅうっと握り潰されそうな感覚に襲われた。
綺麗な顔の男が頬を染めてこちらを見下ろしている。
…あぁ、これからどうなってしまうんだろう。
私はぐるぐる回る世界に耐えきれず意識を手放した。
[終点]
たとえ失敗しても、今上手くいかなくたっていい、ここから這い上がってやる。と思える人は強い。
そうなりたい。いつもつい凹んでクヨクヨしちゃう。でもこれはこれで良い失敗の受け止め方かもしれない。思い切り凹んでスッキリする、なんてのもアリだよね
私の人生のあらすじが、最初から決まってたら楽なのになぁ、線路が敷かれていて欲しい。なんて思う自分がいる。
けど、本当にそうなったら窮屈で逃げ出したくなるんだろう。
ないものねだりが人間の性
春の太陽のような、暖かい人。
その暖かさに吸い寄せられるように、あなたの周りにはいつでも大勢の人がいる。
誰にでも優しいところが好きだけれど、たまには僕だけを特別扱いしてほしいと思ってしまう。
小さなつまらないことからでも、幸せを汲み取れるような人間になりたいね