たった一瞬の このきらめきを
食べ尽くそう二人で くたばるまで
ー感電 米津玄師
''きらめき''が題のお話を考えようとしたら、このフレーズとMIU404が頭を埋めつくしてだめでした。
あの相棒コンビ大好きなんだよな……(頭抱え)
余計なことを考えず
鳥のように
すいーっと空を流れてみたい
風が頬を切る感覚
身体が宙に浮く
緩やかに落下していく
背後には小さな太陽、快晴の空
想像だけでもなんか良いね
カミングスーン夜の海
「…君の奏でる音楽が好きなんだ。
僕のHPを回復してくれる時の、''やすらぎ の ねいろ''。
でも満タンになったら演奏は止まってしまう。
心地いい音が途切れるのが惜しくて、せっかく君に怪我を治してもらっても、いつも寂しいような嬉しいような複雑な気持ちになって。
で、レベルが上がればHPゲージも増えて、今より長く聴いていられるはず、そう思ってさ……ごめんって。」
今ヒーラーの彼にこっぴどく叱られている。
普段よりちょっぴり高難易度な洞窟にソロで挑んで、うっかり瀕死になっているところを発見されたからだ。
リスキーな道を選んだ自覚はある。
手っ取り早く経験値が欲しかったけど、ただひとりの仲間を危険に晒したくなくて。
「黙って行ってごめん。もうしません……やるとしても相談するから。」
『おい、ちゃんとわかってるのか?俺がもし間に合わなかったら瀕死どころじゃ済まなかったんだからな。それに、そんなに生き急がれると心配になる。俺を哀しませないでくれ、相棒。』
彼は僕に釘を刺して部屋を出ていく。
これは相当怒らせてしまったな。でもちゃんと回復して簡易的な加護魔法までかけてくれてる。
…不安にもさせた。反省。
ーーー
『…演奏くらい、頼まれればいくらでもするのに。』
お互いに不器用なアタッカーとヒーラーの話。
【お次は終点、宵車庫。宵車庫。お降りの方は呼び鈴を3回押してください】
微かに耳に入る機械音で、意識が浮上する。
仕事帰りのバス内、眠気でうつらうつらしていたら、うっかり終点まで来てしまった。
やがてエンジン音が小さくなり、車内灯がじわっと白からオレンジに変わった。
すぐに降りなければ、とアナウンスで伝えられた''呼び鈴''を探すが見つけられない。困った。
まぁしかし、既にこのバスは終点に着いていて、乗客は私だけ。鈴を鳴らさなくても降ろしてくれるか。
乗降口へと一歩、二歩、踏み出したところで扉が閉まり再びエンジン音が大きくなる。
あれ、あれ?終点じゃなかったっけ。明日も仕事なんだ、はやく帰らないといけないのに。
「すみません、運転手さん」
…姿が見えない。誰もいない。
背中に冷や汗が滲む。私は何に乗っていたんだろう。
寝起きの頭は上手く回らなくて聞き流してしまったが、聞き慣れない停車場所とアナウンス。
どこなんだ、ここは。
『…あぁ、お客さん。』
不意に背後から、声。肩が跳ねる。
『驚かせてしまって申し訳ありません。こんな所に居たんですね、あなたを探していたんですよ。』
恐る恐る首を回し振り返ると、上背のある、眉目秀麗な男が立っていた。
『見知らぬ場所に着いてしまってお困りですよね。僕がお助けしましょうか。』
すごく驚いたが、助けてくれる…のか。
私は今、ここはいったい何処なのか、何故このバスは運転手不在なのに走っていたのか、誰もいないはずの背後に何故制服を着た男がいるのか、そして彼は何故私がこの場所を知らないと知っているのか…とても混乱している。
ここで得体の知れない男に助けを求めるのも怖い。でも何よりこの不安から逃れたくて、口を開く。
「…お願いします。」
途端、酒に酔った時のように目が回る。真っ直ぐ立っていられず男にもたれ掛かった。
『承知いたしました。きっとここより安全な場所に送り届けます。僕がついていますから、ご安心ください。』
男の声が痛いほど頭に響く。耳に届くのは優しさ溢れる声なのに、心臓をぎゅうっと握り潰されそうな感覚に襲われた。
綺麗な顔の男が頬を染めてこちらを見下ろしている。
…あぁ、これからどうなってしまうんだろう。
私はぐるぐる回る世界に耐えきれず意識を手放した。