気温の下がり方が一気に下がっていて、暖房を入れるか一瞬悩むけれどそこまでじゃない。
食事が終わって恋人と居間のソファに座って寄り添い合う。彼の温かさが愛おしい。
あ、そうだ。
私はちょっと名残惜しいけれど、クローゼットの奥から取り出した。
せめて見るだけでも暖かくなるようにと思って、少し早いけれどティーライトのアロマキャンドルをテーブルに置いた。
彼はライターでアロマキャンドルに火を灯す。私は彼の隣に座って腕を絡めて肩に頭を乗せた。
揺らぐ灯火から柔らかい甘い香りが、気持ちが穏やかになっていく。
特に音もなくて、ゆっくりとした時間だけが流れて行った。
おわり
五四〇、灯火を囲んで
少しずつ気温が下がってきて、薄着で過ごすには難しい季節になりました。
それなので今日は恋人とふたり休みを合わせて衣替えデーです。
クローゼットの奥から収納ボックスを彼が取り出してくれる。私が受け取ろうとするけれど、彼から「重いからダメ」って言われた。だから大人しく置いてくれた収納ボックスを開けていく。
このボックスは彼のだ。
そこにはブラウンのダウンジャケットがあった。
「あ……」
私はそのジャケットを自然と手に取ってギュッと抱きしめてしまった。
「どったの?」
彼のジャケットを抱きしめているのを見て彼が驚いて声をかけながら隣に収納ボックスを置く。
私の様子を見てふわりと微笑んで座ってくれた。
「俺のジャケット、なんか変だった?」
私は首を横に振った。
このジャケットは大切なデートの時に着てくれたから私にとって思い出が深いジャケットなの。
なにより、このジャケットを着た時の彼が格好よくてドキドキしたから、その時をどうしても思い出しちゃう。
「変じゃないです。一度クリーニングを出しましょ」
「そうだね。君のジャケットも一緒に出そ」
「はい!」
そうお互いに微笑んでから、また冬支度を進めた。
おわり
五三九、冬支度
いま、私はとても幸せです。
大好きな彼と恋人になって、一緒に住むようになった。
一緒に眠る時間がどうしようもないほど幸せなの。彼の温もりは安心してゆっくりと深く眠れるようになったんだ。
だからね、この時間を止めて欲しいって思うの。
でも。
私はいつか彼と〝家族〟になりたい。
そう思うのは早いかもしれないけれどね。
だから、時間は止めて欲しくないの。
今が幸せだけれど、この先に幸せがもっともっと増えるかもしれない。
そう思ったら、時間を止めてなんて言えない。
だから私は彼と先に進むの。
彼と幸せになる道を探すために。
おわり
五三八、時を止めて
季節限定の甘やかな香りが鼻をくすぐる。
俺の恋人はその香りが好きだから、この季節はさらにご機嫌だ。
俺自身も嫌いじゃないと言うか、どちらかと言うより好きなんだ。
仕事の帰りにバイクでキンモクセイが香る場所、少し探してみようかな。
穴場を見つけられたら、彼女をバイクデートで連れていきたいんだよね。
俺は去年、彼女をキンモクセイが香る場所に連れて行った時の幸せそうな顔を思い出す。
あの愛らしい笑顔がまた見たいから、ちょっと探索しよ。
もちろん、彼女に心配させない程度にね。
おわり
五三七、キンモクセイ
私の恋人は救急隊員です。
人々を助けるために危険なことがあっても現場に赴く。時々怪我して帰ってくる。
ほんとうはね、〝行かないで〟って願ったのに。
怪我をしないで欲しい。
だから危険なところに行かないでって。
でも私、知ってるんだ。
人を助けている時の彼が一番格好いいってこと。
だって、私が彼を好きになったのは、人を助ける彼の姿なんだもん。
行かないで。
確かにそう願っていたけれど、救助に行く時の彼の背中が大好きで、私の誇りだったり……します。
おわり
五三六、行かないでと、願ったのに