俺はとてもドキドキしている。
それというのも、初めて恋人の家に居るからです。
彼女はキッチンで準備してくれているんだけれど、めっちゃいい匂いー!
これ絶対にハンバーグだよね?
俺の好きな食べ物だって言ったことあるから、絶対そう!
仕事もハードだったし、この匂いはたまんないー。
匂いに空腹感が刺激されまくって、お腹がついに鳴りだした。
「お待たせしましたー!」
そう言われて出てきたのは、やっぱりハンバーグ。しかもプレートになっていて付け合せも俺好み。
形はちょっといびつだけど、本当に美味しそうでのとがごくりと鳴ってしまう。
「食べていい?」
「温かいうちに食べてください」
彼女は正面に座って、ニコニコ笑っている。
これは、感想を待っているな……。
ほんの少し緊張するけど、ナイフとフォークを取ってハンバーグを口に運ぶ。
噛むたびに溢れる肉汁もそうなんだけど、何か違う。ファミレスのハンバーグと違って肉々しい。
これは味って言うより食感かな?
ほんの少しコゲもあるんだけど、これも美味しい。
「凄く美味しい!!」
俺がそれを告げると彼女は弾ける笑顔になった。
「良かったぁ!!」
嬉しそうに微笑む彼女だけれど、どこか安心した表情するから、彼女も不安だったんだと思った。
「これ、普通のハンバーグと違う?」
そう聞きながらまたハンバーグを食べていると、照れたように答えた。
「ちょっとだけですよ」
照れたように笑う彼女を見て胸が熱くなった。
ああ、これは。
かなり工夫と練習したんだな。
手先が器用かと言われたら彼女はかなり不器用なタイプだ。それでも、これだけ美味しいハンバーグを作ってくれた。
俺が好きなものを。
初めて俺のためだけに作ってくれた手作りのご飯。
これって〝小さい愛〟でおさまる?
おわり
五三一、tiny love
キッチンでパタパタと走り回ってお皿を出す。
彼と想いが通じあってから初めてうちに遊びに来てくれる日になっていた。
元々は仕事の日だったのだけれど、どうしても彼の好きなものを手作りしたくて早退させてもらった。
いや、大げさって思われそうだけれど、料理が得意って訳ではないから時間がかかると思ったの。
彼の好きなハンバーグに付け合せと、ご飯と、彼と仲良くなるきっかけのクリームソーダ。
ハンバーグは数日前から練習していたから失敗はしないぞ。
あと、付け合せは子供っぽい食べ物が好きって言っていたから、ファミレスのハンバーグプレートにしたいかな。
クリームソーダも練習した。
バニラアイスもいいものを買ってある。
大好きな彼を想いながら、ひとつずつ丁寧に作ろう。
焼くのは彼が到着してから。
喜んでくれるのを想像しながら、彼が来てくれるのを楽しみにおもてなしの準備を進めた。
楽しみだな!
おわり
五三〇、おもてなし
瞳を閉じて浮かぶのは、彼の表情ばかり。
屈託のない笑顔は太陽のようで、私の心を簡単に奪っていく。
孤独だったあの時が嫌で、私はこの都市に辿り着いたの。だからいつか特別な人が出来たらいいなって思ったんだ。
あ、でも家族みたいに大切にしてくれる人たちには出会えたんだよ。本当に大切な人たちなんだ。
そんな人たちとは別に、心惹かれてしまうのは誰にでも優しいお医者さん。
お客さんから、本気で好きになっている人もいるっぽくて、なんとなくそんな噂を聞いて胸が苦しくなる。
でも、色んな女性から強引な誘いを受けて困っている姿を見たことがあった。
どうしたらいいんだろう。
私の気持ちを伝えたら迷惑になっちゃう……よね。
どうしよう。
この焔を消せそうにない。
おわり
五二九、消えない焔
瞳を閉じて浮かぶのは、あの子の表情ばかり。
自分の心にはブレーキをかけちゃうのに、あの子の弾けたような笑顔と可愛らしい声が響く。
特別な人を作りたくない。
そう思ってこの都市に来たのに、気がついたらあの子が忘れられない。
お世話になっている人たちも、友達も沢山増えた。
それでも、ひとりになった時にどうしても彼女が浮かんで胸が締め付けられる。
どうしたらいいんだろう。
俺はこの気持ちを、認めてもいいんだろうか。
おわり
五二八、終わらない問い
「どうでしょう?」
ハロウィン用のコスプレ衣装を身にまとった恋人が俺の前でクルンと一周回る。
ふわりと動く短いスカートが俺の目には眩しい。
「可愛いですか?」
「可愛いけれどスカート短過ぎ!」
「えー、可愛いじゃないですかー?」
「可愛いよ。可愛いけれど、素足にその短いスカートはダメー!」
そもそもとして色素の薄い彼女が、更に白をイメージした衣装。ふわっとした柔らかそうな布の短いスカートは俺にとっては大変目に潤いを与えてくれる。
彼女は再びクルンと一回りするとスカートと一緒に羽根も揺れる。
いや、この時期とはいえ、スカートは勿論だけれど根本的に露出高いんだよな。
幼さが残る顔なのに、プロポーションはとても良いからこんな格好したら他の男共の視線も集めちゃうじゃん。
「でもなんでハロウィンに天使なの?」
「え、みんなで可愛いからこれにしよって」
うっ。
〝みんなで〟と言われてしまうとダメと言いにくくなるじゃん。
「衣装は同じで色違いにして、他の部分はみんな変えているんです。羽根とか、靴とか」
楽しそうにそう言ってくれるんだけれど、俺としては許容しにくい。
「ダメですか?」
眉を八の字にして、悲しそうな表情で見上げる。
ズルいですよ、その顔は。
俺は両手を上げる。
「わかった。せめて素足はやめて。あとスパッツ履いて」
俺ができる最大の譲歩を提示する。
さて、ここから駆け引き開始だ。
おわり
五二七、揺れる羽根