「あったかいなぁ……」
「あったかいですねぇ……」
木々の隙間からこぼれ落ちる光は、ベンチに座る俺と恋人に心地よい温かさをくれる。暑くなろうという季節の中、木陰が暑すぎる光を程よく遮断してくれて心を穏やかにしてくれた。
休みの日にアクティブに動くのも楽しいけれど、たまにはこんな風に恋人とまったりのんびりと、木漏れ日に身を委ねて過ごしてもいいかもしれない。
おわり
三五六、木漏れ日
一人でぼんやりしていると、つい口ずさむ歌があった。本当に癖のようになっていて俺自身が気がついてないことがある、らしい。
先輩にも、仲間にも言われて結構驚く。
無意識に歌っているから気が付かないんだけれど……
「歌っている曲、熱烈なラブソングが多いよね。彼女のこと想ってるの?」
そんなふうに言われたことがしばしばあって、図星だからこのクセをやめたいって思った。
おわり
三五五、ラブソング
以前、恋人に何か欲しいものはあるかと聞かれた時、散々悩んでラブレターと答えたことがあった。
正直、何か欲しいと言うより彼が選んでくれるならなんでも嬉しいんだよね。だから無理に何かって言われてもちょっと困った。
どの状態でくれるのか分からないけれど、聞かれてから結構経っているなぁ……。
いつくれるかな。
それとも恥ずかしくてくれないかな?
誕生日はもう過ぎたから……どのタイミングでくれるのか、少しだけ気になっちゃう。
その手紙を開く瞬間、どんな気持ちになるか今から楽しみだな。
おわり
三五四、手紙を開くと
俺は救急隊員で、年末年始の時もそうだったけれど、連休は仕事柄休めない。
恋人の会社は整備会社でカレンダー通りだから休みなんだけれど、これまた年末年始と同じように緊急の呼び出しの時は対応するメンバーに率先して入ってくれる。つまり、その後に休みを取れるように調整してくれていた。
そんな中、車の調子がおかしくて整備士を呼ぼうということになった。が、今日に限ってどの会社も連絡がつかない。
どうしようと先輩が困っていたから声をかけた。
「彼女、呼びましょうか?」
「え、いいの!?」
俺の恋人が整備士だということは先輩も知っている。藁にもすがる瞳で俺を見つめた。
「会社的に緊急事態があれば対応するって言っていたから、言えば来てくれると思いますよ」
「助かるー!!!」
先輩はすぐにスマホを取り出して、彼女に連絡をする。すぐに繋がったようで、少ししたら上機嫌な顔で俺にお礼を言ってくれた。
こういう時に、俺に呼び出してってことを言わずに、自分が連絡するのが実に先輩らしい。責任者としての自覚がある。
そこはそれ、これはこれ。
分別付けられる人だから尊敬する。
しばらくして俺は救助で病院から出ることになった。すぐに着替えて車に乗り込む。
ちょうど彼女が到着したようで、動きの悪い車に向かっていた。
そして、彼女とすれ違う。
ホンの一瞬、目が合った。
でも直ぐにその瞳もすれ違い、お互い正面を見つめる。
お互いプロの仕事をしようね。
おわり
三五三、すれ違う瞳
今日は休みを合わせて、彼女とドライブに来た。
空気のいい場所に行きたいねという話でこの山に来たけれど、薄暗い雲があって天気に不安を覚える。
坂を登り車を走らせていると、次第に霧の中に入り、視界が白いモヤに覆われた。そうこうしていると、ふわりと空気が変わって日差しが射し込む。
「うわっ」
「すごい」
つい、ふたり同時に声を上げる。それもそのはず。さっきまでのモヤが抜けた先に雲ひとつない空は、まさに快晴。
「わあ、下が雲だ!」
「あ、じゃあ雲を抜けたんだ」
「なにそれ、すごーい!」
さすがに俺は運転しているから下を覗き込むなんて出来ないけれど、頂上に着いたら下を見ようと思った。
そして、頂上にある車を寄せて停められる場所に駐車場があるのでそこに停めて彼女と展望台に歩いていく。
「わぁ、空気も美味しいし、風が気持ちいいですね」
「そうだね」
彼女に返事をしながら、俺は展望台の下を覗き込む。下の景色が雲に覆われて見られはしないけれど、見上げれば青い青い空が広がっていた。
おわり
三五二、青い青い