昨日のクリスマスイブは遅番の仕事をみっちりこなし、家に帰ったあとはシャワーを浴びて、恋人を抱き枕にしながら眠った。
今日は普通の時間帯で、明日ふたりとも休みにしたから、クリスマスの本番はこれからだ。
彼女へのプレゼントは、先日ようやく届いて休憩時間に無事引き取ってきた。
喜んでくれるといいな。
仕事を終え、彼女と役割分担をしていた買い物に出かける。今年のクリスマスは、何かを作るのはやめた。そんなの絶対に時間がかかる。今年は平日だから、夕飯は外で買うと話し合っていた。
ケーキは彼女が、夕飯になるものは俺が買う。
簡単なオードブルとお酒買おうかなー。
こういう時くらい、ちょっと高めのおっしゃれーなシャンパンを飲んでもいいよね。と言っても、彼女に飲ませすぎないように、量は少なめのやつにしよう。
デパ地下に行って少しだけ贅沢なオードブルを数種類、それとシャンパンを選ぶ。こういう時は有名なモエ・シャンドンかな。
家に帰るとお約束のただいまのハグ。疲れた身体に彼女の温もりは効きます。本当に癒し。
「先に夕飯食べる?」
「はい! お腹すいちゃいました」
「まかせろまかせろー。美味しいものを買ってきたぞー」
「やったー!!」
両手を上げてクルクル踊りまわる彼女は今日も可愛いです。
「ケーキも引き取ってきましたから、楽しみにしてくださいね。一緒にプレゼントも渡しますので!」
「プレゼント!?」
「今年は物じゃないんですけど……」
「いいよ、そんなの。気持ちが嬉しいもん!」
困ったように笑うけれど、言葉通りで彼女が用意してくれたことが嬉しい。
嬉しいけれど……俺が用意したプレゼントは物なんだけど……大丈夫かな?
心の中で、不安が広がるけれど、困らせることはないだろ。と、思う。たぶん。
買ってきたオードブルとお酒で、ふたりだけのクリスマス会を過ごす。
少しいいグラスにシャンパンを入れて、ふたり同時に軽くグラスを鳴らして軽く口に含む。ほんの少しの苦みはあれど爽やかなブドウの味が飲みやすくて美味しい。
そして食事を合わせて食べる。さすがデパ地下のオードブルはお肉も柔らかいし、味の深みが凄い。
「ん〜〜〜!! おいひぃれふ〜〜〜!!」
気がつくとハムスターみたいに頬にいっぱい食べものを詰めた彼女がとろけきった笑みで叫ぶ。実際に美味しいから納得するし、何よりこの笑顔はたまらないほど可愛い。この笑顔プライスレスだな。
「喜んでくれてよかったー!」
「お酒も食べものも美味しくてとけちゃいそうです!」
グラスを回しながらオードブルを見つめる瞳はいつも以上にキラキラしていた。お酒も入っていて、ふわりとした微笑みは強烈に惹かれる。
「私のも喜んでもらえるといいな……」
「ん?」
とても小さい声でつぶやくから、思わず聞き返してしまった。
「んーん。デザート、楽しみにしてくださいね!」
首を振ってから、切り替えたのか。俺に挑戦的な笑みを向けてくれる。
デザートとして出してくれたケーキ。それと一緒に持ってきたクリームソーダには薄い青の炭酸にうさぎとパンダを模した小さなバニラアイスが添えられていた。しかも小さなハートのチョコレートがひとつ付いて。
うさぎは俺のイメージ動物で、パンダは彼女のイメージ動物だから、俺たちを模していた。
「なにこれ、可愛いー!! 初めて見たけど、どうしたの!?」
「私が考えて手作りしましたー!!」
クリームソーダは俺の好きなもので、まさかこう持ってくるとは思わなかった。
「これが私からのクリスマスプレゼントです」
うさぎに向けてパンダが寄り添っている具合が、ギュッと寄り添っていて本当にイチャイチャしている感じがする。
なんだろう……彼女から〝好き〟って言って貰える気がして胸が熱くなって彼女への想いが溢れた。
俺はその衝動のままに動く。カバンにしまっていた小さなジュエリーボックスを彼女に差し出した。
「俺からのプレゼント……形に残るものだけど、君にどうしても渡したいものだったから……」
以前、見つけた彼女のイメージカラーに近いアイスブルーダイアモンドのリング。
サイズは過去に彼女と作りに行ったことがあるから、お店と相談した。だから合っているはず……。
彼女が俺にくれたものは、心の底から俺が好きなもので、俺への気持ちを込めてくれていて……こういうものを選ぶ彼女が好きなんだ。
驚きつつも、受け取ってくれた彼女の瞳の端にきらりと光るものが見えた。
「ありがとうございます。大好きです!」
おわり
二二三、クリスマスの過ごし方
イブの夜……だけど俺は遅番の仕事!
それに合わせて彼女も遅番の仕事。
そりゃ、ね。
彼女とゆっくり過ごしたい気持ちはあるけれど、仕事は仕事なんだよ。俺にも彼女にもそれはそれって話になった。
まあ、代わりに明日は普通、明後日は休みにしてあるから、明日ゆっくりしようかという話をしている。
今日は家帰ったらシャワーを浴びて彼女を抱き枕にして眠るんだ。
彼女へのプレゼントも用意してある。
喜んでくれたらいいな。
そんなことを考えていたけれど、頭を切りかえて仕事に向かう。
明日ゆっくり彼女と過ごすために、今日頑張ろ!
おわり
二二二、イブの夜
どれがいいなかな。
何なら喜んでくれるかな。
もうすぐクリスマスだから、恋人へのプレゼントを選びに来ている。もちろん一人で。
一緒に暮らしてそれなりに経つ。
だから彼の好みもある程度把握はしているけれど、それでも悩んでしまう。
正直ね。
正直、私が選べば彼は喜んでくれると思うの。
でもそうじゃないのー!!!
彼の役に立てるものを贈りたいの。
身につけるなら時計とか?
でもあまり高いもの贈っても困らない?
こういうのはお金じゃないと思うんだよね。
どうしよう。
なになら喜んでくれる?
彼の好きなもの……。
そうやって考えているとパッと思いついた。
そうだ。そうだよ!
彼の好きなもの、それはクリームソーダ!!
そこからは驚くくらいに、こうしたいと言うものが頭に浮かんでくる。
彼のイメージのうさぎと、私のイメージのパンダのアイスクリームを寄り添わせて……彼に大好きだよって伝えたい。
もうそこからの私の行動は早くて、足早にお菓子を作るコーナーに向かっていく。
あ、でも……私は不器用だから作れるかな。
そんな不安も過ぎるけれど、そんなのは練習すればいい!
手作りのマフラー作ろうとか思うよりマシ!
……あ、来年はそれにしよう。
そんなことを考えながら、なになら足りる?
これならできる?
そんな考えがフルスロットルでめぐってくる。
クリスマスまで時間は足りないけれど、たくさん練習して彼に喜んでもらえるように頑張ろう。
絶対に喜んでもらえる。
それが分かるから、ワクワクが止まらない。
当日に驚かせて、大好きって伝えたい!
おわり
二二一、プレゼント
家に帰ると恋人といつものハグをした後、ご飯を食べる前にお風呂に入るように言われた。
お腹空いているんだけどな……。
そんな事を言葉にできないまま、大人しく浴室に向かった。
ガラリと扉を開けると、まず柑橘系の香りが鼻をくすぐる。爽やかで上品な香りがした。
そして、珍しく湯船にお湯を張っていて、黄色いくだものがプカプカ浮いていた。
香りの元はこのゆずだな。
身体を洗ってからお湯に浸かる。中に入っているゆずを上からツンツンと続くと、ぽよんぽよんと沈んでは浮かんでを繰り返した。
日本の冬至にゆず湯に入るというのは聞くけれど、今日は冬至じゃない。
なんでだろう?
そんな単純な疑問をお風呂に出た後、恋人にぶつけてみた。
「ゆず湯に入ると風邪をひかないって聞いたから、予防に! 本当は冬至? に、入った方が良いらしいんですけど、私知らなかったんで……」
今日、職場でその話を聞いて、速攻ゆずを買って用意してくれたらしい。
確かに今、身体は芯から温まっていた。内側から熱が出ていて、少し暑いくらい。
少し前に、俺は声が出なくなる風邪をひき、風邪も治って、少しづつ声が出るまで回復した。そういうところで心配してくれたのかな。
うーん。俺、愛されてる。
おわり
二二〇、ゆずの香り
空が好きだ。
雄大な空、その色が大好きだ。
だから仕事でヘリに乗る時、緊張感を持っている時だけれど緊張したままだとダメだからリラックスって必要なんだ。
俺はリラックスする時にこの空を見るようにしている。
透き通る青空、雲ひとつの無い空、曇天の空、雨の空。風の日は俺達が危険だから無理だけれど。
でも、どんな空も広大。
その広さに息を飲むんだ。
俺の恋人はそれとは違う意味で空色が好きみたい。でも、同じ色が好きだと言うのをきっかけに、仲良くなったから……今の俺にはちょっと特別な思い入れがあったりする。
だから今、救助でヘリに乗る時。空を見つめると彼女も思い出すからよりリラックスできるようになった。
俺の大好きな広大で愛しい空。
おわり
二一九、大空