冬の気配が漂い始めている。僕は一人、イヤホンを嵌める。
思わず泪が流れる、大切な人の面影が行き過ぎる。
――ねぇ約束しよう。
――また出会って、話をして、手を繋ごう。
――そしてまた恋をしようね。
「あぁ、約束だ」
僕はボイスレコーダーを止め、君の墓石にそっと撫でた。
堕ちていく。何処までも。
まだ続く、僕の物語〈人生〉は続く。
堕ちていく。堕ちていく。堕ちていく。
堕ちても、まだ続けようとする。這い上がろうともがき、足掻きながら物語〈人生〉を描き続ける。
――光なんて見えなくとも、周囲を闇が占めていても、僕は生き続けようと毎日もがく。無駄だと分かっていても足掻く。
電車の車窓から過ぎる外を見ていた。
旅はいつの頃も好きだ。まだ見たことも、体験したこともない出来事に胸を躍らせながら、目的地も定めていない駅の到着を待つ。
駅に着き、電車から降りてプラットフォームから一望できる海を見渡す。乗り継ぎをする予定はないが、ベンチに座った。
暫く、海を見ていると。
隣にツグミがやって来て、羽を休めている。珍しいわけではないが、思わず首に下げたカメラでツグミを撮る。
シャッター音に驚いたのだろう、何処かへ飛び去っていった。
―――どうか、君の旅に幸多からんことを。
飛び去る小さき影をカメラに納めながらつぶやいてた。
町中を歩いていると、無意識のまま貴方を探しています。
さらさらなロングヘアの女性を自然と目が勝手に追うのです。
でも、貴方とは再会〈会えない〉まま時が過ぎ、あの時の淡い恋心が薄れてくることもありますが、ふっとすると貴方の面影を探してしまいます。
無意識のまま、さらさらと靡く貴方の黒い髪先を探しています。
バスの窓から流れていく景色、真っ白な雪が地面に落ちては消える。
幼い時分に手を繋いで歩いた親の手の温もりが懐かしい。思い出は温かく、記憶は遠い。
バスから降りる頃には雪が止み、雪雲の裂け目から三日月が申し訳なさげに顔を出している。
さて、思い出を振り返るのはこれで最後にしよう。振り返っても戻ってはくれないのだから。