#5
きらきら輝くものでも、
誰もが欲しがるようなものでも、
売ったら価値のあるものでもない。
でもそれはきっと大切にされるにふさわしい小さな思い出と、幸せな証拠。
『七夕』#4
今日は七夕みたいだ。忘れていたよ。昔は七夕が近くなると笹に飾る折り紙を持ってこなきゃだとか今年は晴れて星が見えるかなだとかみんなの願い事は何かなだとか僕はどんな願い事を書こうかなだとか。毎年そわそわしてわくわくしていたな。とてもきらきらした夢を毎年書いていたのをよく覚えているよ。綺麗な夢、見なくなったな。過去の幸せな夢を見てもそれは永遠に取り戻せない。最後にはどろどろに赤黒く溶けて目覚めてしまう。窒息するほど幸せな夢が窒息するほど苦しい悪夢になった。今年は大きな笹も綺麗な飾りもないけれどもし願う資格が僕にもあるのなら、あの幸せをもう一度。夢だって構わない。最後に赤黒く溶けて消えることのない幸せな夢を。きっと今度こそ離さないから。
『窓越しに見えるのは』#3
今日も来るかな?
きっと来るよ!
ほんと?今日も雪がふってるけど来てくれるかな
うん! ほら今日も来たよ
ほんとだ!今日も来てくれたね!
でも昨日よりは元気ないね
疲れてるのかな?
夏になったら今度はぼくたちがご飯持っていってあげようよ
そうしよう!
見て!今日はどんぐりだ!
やった!これで凍えずに冬を越せるね
そうだね!本当にあの人間さんは優しいね
小さな木の家で、今日も子リスたちは窓を見ながら幸せそうに笑いました。
『赤い糸』#2
結ばれていたと、結んだと、思っていた。
君はどんなときでも飄々としていて掴みどころがなくてどこまでも優しい子だった。
最期だっていつも通りに笑っていたね。病気なんて嘘みたいだった。糸は簡単に切れてしまう。ベッドの上で最期を迎えた君が起きてくれないかと何度叫んだだろう。叶わないのならやることはただひとつ。君の遺言の通りになるように。
『来世はお前と家族になれたらいいな』
そう言って縋るように笑う君の願いが叶うように。
だから赤い縄でそれぞれの足を結んで、マッチについた小さな炎を放った。
ねぇ、知ってる?赤い糸を束ねて縄にして、好き合う二人の足を結んでおくとずっと一緒に居られるらしいよ。
『ここではないどこか』#1
きっと私達は違う道を進むように決まっていたの。
避けられない未来ならばいっそのこと
ここではないどこかでまた一緒になれますように。