誰も知らない秘密は
この世に存在しないのと一緒だ
いつしか、窓の外はほの明るくなっている。
静かな夜明けだ。
どうしてこんな時間まで起きていたのだろう。
早く寝なければ、そう思っていたのに。
後悔しても仕方がない。
私は目の前のPCの画面を見つめる。
今度こそシャットダウンして、床につかなければ。
そう思いながらマウスに手を伸ばす。
だが、決意とは裏腹にスタートボタンとは違うところをクリックしてしまう。
ああ、どうして私はこんなにも意志が弱いのだろう。
全てはお前のせいだ。
時間を溶かす、悪魔のゲーム。
その名は『ソリティア』。
『heart to heart』
つたない英語力しか持ち合わせていない私は、翻訳アプリにこの文章を入力してみた
そして出てきた答えは、『ハート・トゥ・ハート』。
……まんまじゃないか。
悪態をつきながら、『代案』というボタンを押して見る。
すると、こんな文章が画面上に現れた。
『心を通わせる』
なるほど、それなら意味はわかる。
そして私がぼんやりと思っていた『心から心へ』は表示されていなかった。
私の英語力はつたないどころか問題外らしい。
花はすぐ枯れるけれど、造花なら枯れないから。
そう思って真夏の墓参の時、花器には蓮の造花を供えた。
枯れて腐って異臭を放っては、故人もさぞや不快だろう、そう良かれと思ってしたことだった。
秋の彼岸を迎え、今度は生花を持って墓地を訪れた私の目に入ってきた物は、風雨にさらされ色褪せみすぼらしくなった造花だった。
故人のためと思っていたのに、これじゃあ本末転倒だ。
永遠の花束なんてないんだ。
そう思い知らされた瞬間だった。
そんなに優しくしないで。
もっと強く。
これ以上ないくらい強く。
擦り切れるほどに。
でないと落ちないよ、この汚れは……。