冬休みになんかならなきゃいいのに…
終業式での校長先生の話を聞き流しながら思う。
君と過ごせる時間が、減ってしまう。
待ち合わせ場所に寝癖をつけてやって来る姿。
「体操着忘れたから貸して!」と俺のクラスに来る姿。
俺を見つけると「おーい!」と手を振りながら話しかけに来る姿。
…あと何回見られるかな。
センチメンタルな気分に浸っていると、あっという間に下校の時間になった。
いつも通りの場所に向かい、君を待つ。
「お待たせ!明日から休みだねー。」
「そうだね。」
「あ、明日家行っていい?
課題わからないとこあるから教えて?」
「お、おう…!」
学校での君の姿を見られるタイムリミットが近づく。
それと同時に卒業後の君の姿が見られるカウントダウンはもう始まっている。
明日の君に会えることへの嬉しさで、センチメンタルな気分がどこかへ吹っ飛んでいった。
231228 冬休み
俺は今日、手ぶくろをあえて忘れた。
昨日の帰り道、手ぶくろを忘れたお前が
「手ぶくろ貸して!」
と言って俺の手ぶくろの片方を奪った。
…もし俺も手ぶくろを持っていなかったら、
「しょうがないな。んじゃ手繋いで帰るか。寒いし。」
なんて言い出しやすそうだから。
我ながら狡い。
でも許してほしい。
お前と手を繋ぎたいんだ。
さあ!待ちに待った帰りの時間だ!
「聞いてー!手ぶくろ買ったの!」
「え…」
「うそ!手ぶくろ忘れたの?」
「しょうがないなー、片方貸してあげる!」
…これはこれで嬉しいな。
手を繋ぐのはまた今度。
231227 手ぶくろ
出逢って20数年が過ぎた。
あの頃の華奢さも、純真無垢さも、年を重ねるにつれどこかにいってしまった。
この世に変わらないものは、ない。
そして、俺がお前を想う気持ちも変わった。
俺よりひとまわり小さくてすぐ泣いていたお前を「守らなければ」と思っていたが、今は違う。
庇護対象から背中を預け合う相棒になった。
変わらないものはない。
でも変化を受け入れてこれたのは、となりにお前がいたから。
俺たちはふたりでひとつ。
一緒に前に進み、倒れる時は一緒に前に倒れよう。
231226 変わらないものはない
20:53
家の明かりがついていることを確認。半同棲中のあいつが来ていることを察して無意識に上がった口角をマフラーで隠す。
20:55
チャイムを鳴らす。パタパタと玄関に向かってくる足音が聞こえて来て、鍵が解錠される。
「おかえり。お仕事おつかれ。」
「ただいま。お互い様やろ。お前もおつかれさん。」
21:24
お互いが持ち寄った食べ物や飲み物を広げる。
「これ美味しい!どこの?」
「駅前の…って店。値引きしてたからどんなもんかと思ったけどいけるな。」
22:43
「改めまして、メリークリスマス!開けてみて!」
唐突に渡された包みを開けると、俺好みの手袋があった。俺のことを考えて用意してくれたことに嬉しさが込み上げる。
「ありがとう!大事にする。」
「ふふっ。どういたしまして。」
22:48
「はい、どうぞ。」
漏れ出る「はやくお前に渡したかったんだ…!」という想いをできる限り抑え、平常心でプレゼントを渡す。
「…わ!これ欲しかったやつ!!探しても無かったのに。ありがとう!でも見つけるの大変だったでしょ?」
「そうでもないよ。たまたま見つけたから渡したかったんだ。喜んでもらえたようでなにより。」
…嘘。正直見つけるの物凄く大変だった。でもお前の喜んだ顔が見れただけでそんな苦労もどこへやら。
23:46
明日もお互い仕事があるのではやめに就寝。
お前の寝顔がしあわせそうで、こっちもしあわせな気持ちで満たされる。
「おやすみ。またあした。」
これが俺の、クリスマスの過ごし方。
231225 クリスマスの過ごし方
まわりが
「クリスマスはふたりが出逢った記念日だね!」
と幾度も囃し立てるから、何かすべきなのだろうか…と意識してしまっている。
意識してしまったが故に、柄にもなくプレゼントを買ってしまった。
…悩みに悩んで買ったからには渡したい。
でもさらっと渡せるようなスマートさは持ち合わせていない。
シャイな俺は、タイミングを見計らってお前のカバンに近づき、「いつもありがとう」と書いたメッセージとともにプレゼントを潜ませようとした。
「…ん?」
するとカバンの中に小包を見つけた。
「まさか…」と思い小包を見ると、案の定俺宛てのメッセージも添えられている。
「いつもありがとう」
…一緒にいる時間が長いとこうも行動が被るのかと、驚きと恥ずかしさでその場にしゃがみ込む。
戻ってきたお前が、俺の手に収まっている俺宛てのプレゼントとお前宛てのプレゼントを見て状況を把握し、その場にしゃがみ込むまで5秒。
一生忘れられないクリスマスイブの夜になった。
231224 イブの夜