それは、ちっちゃな宝石だった。暗闇のなかで、ただひとつ黄色にピカピカ光る宝石。それさえ見つければ、幸せになれるんじゃないかと思った。
「ん……」ぼんやりと部屋の景色が見えてくる。まだぼうっとしていたいなと思うのに、手探りにスマホを探してしまう。後ろ手に枕の下から引っ張り出して、寝返って両手でスマホを掴みながら画面をのぞき込む。SNSの返信…は、まだ来てないか。Instagram、Twitter、discord…指を滑らせて開いていく。何時間も前に来ていたら大変だ。どれにも通知が来ていないことを知ると、ため息をついた。できるだけ最小限の動きで体を捻ってベッドから降り、スリッパを履く。リビングに向かうその間も、SNSを行ったり来たり。昨日は遅くまで電話したんだっけ。見ればチャット欄に記録が残っていた。3時間半もやってたのか……。最近、もっぱら色々な人と繋がって、チャットをしたり電話をしたりしている。
でも……
「なんで寂しいって思っちゃうんだろ」
結局、起きてみればそこには自分しか居ないんじゃないかとか、スマホを切ってしまえば1人なんじゃないかとか、そういうことを考えてしまう。
麦茶をグラスに注ぎながら、光る宝石のことをぼんやりと思い出す。とにかく大勢と、誰かと繋がれば、宝石が見つかるんじゃないかと思った。けど……見えるのは何もない暗闇だけ。
ピコン♪
「あっ、通知………あはは、俺のリプに笑ってる」
俺の笑い声が、一人ぼっちのリビングに響いた。
元気してる??大丈夫?
今のあなたはね、まだまだ知らないことだらけだよ。
でも辛いことがあっても大丈夫。
自分の楽しいをそのまま信じてね。
10年後のわたしより
10年前のわたしへ
元気??どう?
色々あると思うけどたくさん吐き出していいんだよ。
自分の楽しいって感覚を信じてね。今はまだそれでいいよ。必要なことなんて結局あとで知ることになるから。布団かけて暖かくして寝てね!あと妖怪ウォッチを1週間も借りパクするなよ!カセット買いな!
なんで?って思う事が多すぎてさ。みんな当たり前に勉強して大学いって社会人になるけどわたしはなんで?って思う。興味の無い勉強が出来るのなんでだろうなって。答えは志望校に入る為が大半なんだけどさ。じゃあ、あなたは志望校に入る為に富士山に登る試験がありますよって言われたら全く関係なくても登山練習するのか。って
あぁ。なんかなー~………………
雨が好きとか雷が好きとか、共感はしなくてもいいから理解しようとはしてくれていいんだよ。
違う考えってだけでひねくれてるとか、意味わかんない
わたしからしたらさ、そっちが変だっての。
社会の歯車になって働くとか会社のためとかそういうの大っ嫌いだし、我慢も爆発も大人も子供もしていいし、
お堅くて卑怯な大人なんかになりたくないし。
でも逸れたらつらくて世間に乗っかったら楽で、なんて
わたしからしたら世間もそれに適応してるみんなも変人なんだけどな。
ずっとこのままオフトンの中にいたい
ふわりと意識が覚醒する。ぼんやりとした景色がだんだん浮かび上がって、カーテンの隙間から光が差し込んでいるのが見えた。首だけを動かしてスマホを探るけど、ベッドにその姿は見当たらない。うーん…
わたしはもう一度枕に頭を預ける。
感覚からしてだいたい昼過ぎなんだろうなと思う。昨晩、ずっと携帯をいじっていたら朝になっていた。…というか、朝が来て欲しくなくて携帯をいじっていたら残酷にもそれが来てしまったのだ。火曜日に1時間半寝で学校へ行ったことを考えて、まぁ行けるだろと高を括っていた自分は何だったのか。
ま、過ぎたことだしいいや…
火照った腕を掛け布団の上に放り出すと、ひんやりして気持ちがいい。…そういえば、こんな風に学校を休むのはいつぶりだろう。天井でゆらゆら揺れている光を見ながらぼんやり考えた。
学校を休む回数自体は少なくなかったが、そんな日もたいてい朝は起きていて、なにか作業をしていた。この前の正月休みだって、常に毎日なにかしら活動する日々だった。そう考えると、お昼からこんなにゆったり過ごすのは、ひどく久しぶりな気がした。
わたしは手触りのいい毛布を手繰り寄せて、そこに頭を埋める。ネコの身体に包まれているような、柔らかくて暖かい感覚。ふわふわと頬を撫でるそれに、わたしはまたふんわり意識が遠のくのを感じた