NoName

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それは、ちっちゃな宝石だった。暗闇のなかで、ただひとつ黄色にピカピカ光る宝石。それさえ見つければ、幸せになれるんじゃないかと思った。
「ん……」ぼんやりと部屋の景色が見えてくる。まだぼうっとしていたいなと思うのに、手探りにスマホを探してしまう。後ろ手に枕の下から引っ張り出して、寝返って両手でスマホを掴みながら画面をのぞき込む。SNSの返信…は、まだ来てないか。Instagram、Twitter、discord…指を滑らせて開いていく。何時間も前に来ていたら大変だ。どれにも通知が来ていないことを知ると、ため息をついた。できるだけ最小限の動きで体を捻ってベッドから降り、スリッパを履く。リビングに向かうその間も、SNSを行ったり来たり。昨日は遅くまで電話したんだっけ。見ればチャット欄に記録が残っていた。3時間半もやってたのか……。最近、もっぱら色々な人と繋がって、チャットをしたり電話をしたりしている。
でも……
「なんで寂しいって思っちゃうんだろ」
結局、起きてみればそこには自分しか居ないんじゃないかとか、スマホを切ってしまえば1人なんじゃないかとか、そういうことを考えてしまう。
麦茶をグラスに注ぎながら、光る宝石のことをぼんやりと思い出す。とにかく大勢と、誰かと繋がれば、宝石が見つかるんじゃないかと思った。けど……見えるのは何もない暗闇だけ。
ピコン♪
「あっ、通知………あはは、俺のリプに笑ってる」
俺の笑い声が、一人ぼっちのリビングに響いた。

2/19/2023, 4:18:02 PM