︰踊りませんか?
ビカビカ眩しい板に目を焼いて。
暴言と敬語表裏一体あることないこと指で滑らせる。
煙たい言葉に巻かれしまったようだ。
包んだお言葉に蛆虫が湧く。
パンはカビてハムは腐りレタスは溶けて。
可愛らしくラッピング&バスケットへ。
12時間早めた時計に朱肉を押して。
「本日の誤用は?」
コットンに吸わせて終わらせてしまった。
行間を読んで笑顔でナプキン広げて。
ナイフ左手にフォーク右手に丁寧に。
おや、持つ手が逆のようだ。
ぱちぱち弾ける心を拍手で潰して。
骨と贅肉が邪魔くさいな。
チェックチェックチェック印を書いて。
にっこり笑顔がしらじらしい。
「お手をどうぞ」
爪を割ってナイトキャップを被らせる。
クズをクズと認めないいっそ冒涜。
「生まれた場所が」「人生が過酷だったから」
どんな人にでも優しさを見出そうとする。
今宵もお手を拝借。
優しいなんて言葉で纏められちゃって。
さっさとストローで全部吸わせて着火して。
︰静寂に包まれた部屋
静寂に包まれた部屋で、幼い頃習った童謡『チューリップ』を鼻歌でゆったり歌ってみる。
穏やかなあの頃。仲良く、喧嘩もなく、真っ直ぐありのまま生きてた頃。
幻想
あの頃から生きるのが怖かったよ。
一人で部屋に引き篭もるのがあの頃から好きだったよ。
静寂に包まれた部屋で過ごすのが好きだったよ。
窓辺の埃が太陽の光でキラキラと輝いているだけの、窓の向こうの雲がただゆっくり流れていくだけの、なにもない時間。
星が瞬く夜、カーテンを閉めて真っ暗になった天井に家庭用プラネタリウムで映し出してもらった、ただ、それをクルクル眺める時間。
ただ、寝ぼけ眼で、ほとんど夢の中にいながら、そこにいない貴方を探していた。しんと静まり返った夜の部屋は不気味で、暗く何も見えず、心細く、手探りでベッドから降りて歩いた、冬の足の裏の冷たさを、私は今でも愛おしいと思っている。
温かくなることを知っていたから、無下にされるはずがないと自信に溢れていたから、抱き締めてくれることを知っていたから。私は怖くなんてなかったのだ。恐れなど知らなかった。貴方が私を愛してくれたから。
あの部屋で生きた、あの部屋で眠った匂いを、私はもう思い出せもしないというのに。貴方がどんな顔をしていたのかも思い出せないというのに。
貴方の心など今更想像もできなければ補いもできやしないまま。ただ損なえないまま。
4年だ。貴方が注いでくれた4年の愛情が私の心なのだ。
親愛なる貴方へ どうか。
︰別れ際に
欠けているままでいいからね。馬鹿で阿呆で無知で未熟なガキの、良いカモのままで。
もう別れよう。恋人は親の代わりじゃないよ。君は「愛情が欲しい」と言うけれど“親からの愛情”が欲しいんだろう。親からの愛情は親でしか与えられないもの。恋人は恋人からの愛情しか与えられない。
「でも愛情がないよりいいじゃない。恋人からの愛情でも空っぽの心に愛情が注がれるなら願ったりよ」
他人に自分を満たしてもらおうという考え方は健全ではない。心が空っぽな人間が恋人を作るとろくでもないことになる。よくある話だよ、彼女に母親像を求める人とか、彼氏に父親像を求める人とかがいるというのは。それで成り立っているカップルもないわけではない。求められている方が精神的に大人だから求めてくる恋人の相手ができているよう思う。
「じゃあそういう人と付き合えば完璧ってことね」
相手がよほど心が広く、アンタの我儘も怒りも悲しみも全て受け止めてくれるスーパー人間を見つけられたらそうかもしれない。
稀だと思ったほうがいい。基本的に精神が未熟なまま恋人を作ると破局が待ってる。相手に苦しい感情を植え付けてズタズタに傷つける。幸せな感情が怒りや苛立ちに変わってしまう結末を迎える。
さあ、こんなの全部人から聞いた話だから当てにならないかもしれないけど、彼女をやってる人は「彼氏から母親の役割を押し付けられてしんどい。家事も全部やってあれこれ決めるのも全部自分、だらしないところも全部補って、って、しんどい。『お手伝いしてあげる。何したらいい?』って、もう、もう本当に無理。お手伝いって何よ! 対等でいたいって言っても『え?対等でしょ?』って。産んだはずのないデカい息子がいるみたい、しんどい」と言ってたね。彼氏をやってる人は「彼女があまりにも『もっとやってもっと分かってもっと察して常に私を優先して!』って、もう嫌だ。彼女の要望にはなるべく応えてきたつもりだけどもうそろそろ我慢の限界だ。やってもやっても相手が何か返してくれるわけでもなく、察しても相手はこちらを察してくれず、少しでも求められていることに応えられなかったらヒステリックに喚かれて、もう俺だって辛いよ」と。
彼氏をやっていた人はある日我慢の限界がきて彼女を怒鳴ったらしい。最初は優しく説明していたんだと、しかしあまりにも彼女が棘のある言い方で返して聞く耳を持とうとしないからイライラして怒鳴ってしまったと。そしたら彼女に「DV!モラハラ!」とワンワン泣かれたそうな。
メンヘラの素質、モラハラの素質、毒親の素質ってのは大勢の人が持ってる。その素質が表に出るか出ないかの違いだと思う。顕著に現れたとき、人は「お前メンヘラだな」「お前モラハラだな」「お前毒親だな」と判断するのだ。しかしそういうわけでもないのに「自分が傷ついたから相手が悪いんだ、相手がおかしいんだ」と決めつけ他人を非難できる人間も、世の中にはいるもんだ。
繊細で優しいから傷つきやすいというより、ただ傷つきやすいだけで優しくもなんとも無い人ってのをSNSで見かけたが、あれは精神状態が不健康で防衛本能が過剰に働いてる状態だと見受ける。やはり人と関わるときには心身共に健康な状態で関わるのが一番だと思うんだよ。
「でもちゃんとこちらも相手に愛情を注げばいいってことでしょ?相手を思いやって気遣って大切にしたらいいだけの話じゃない」
アンタ、それができないから人間関係で困ってきたんだろう。友人関係でどれほど苦労した?どれほど相手を傷つけ己も苦しみ自分の首を締めてきた?子供の頃からクラスメイトとも上手くやれず、部活仲間とも上手くやれず、友人とすら上手くやれず。職場や他のコミュニティでも上手くやれない。一番身近な人間関係である家族、家庭環境が崩壊していたり健全ではない中で育ってきたなら、そりゃ、できないだろうよ。勉強と同じように基礎がなってないまま応用なんてほとんど出来ない。家族という基礎がないのに家の外の人間関係という応用は出来ない。酷な話だと思うよ、悲しいかな、でも事実アンタはそうなってる。今でも他人と上手く関われないアンタはそれでも「恋人とは上手くやれるはずだ」と、そう言える自信と自尊心があるのかい。
「他人からの愛情さえあれば自信だってつくし自尊心だって育つはず!」
愛してくれる誰かと一緒に成長していくってことも一つあると思う。が、愛情を注いでもらえば注いでもらうほど不安になってどんどん怖くなるというのに、自信が付くと?それどころか自尊心はどんどん低くなっていく。「こんな自分で大丈夫なのかな、本当にこの人に釣り合ってるのかな、本当は自分よりいい人が現れるんじゃないか」って、アンタはそういう性分だ。それか調子付いてありとあらゆる人間を引っ掛けて反感を買って刺されるか。
恋愛は救いではない。むしろ自己を見つめ直す場所になる。何度も言うぞ、恋愛に救いを求めるな。これは恋愛以外でもそうだが求めすぎるあまり破滅に繋がるというのはよくある。「じゃあ求めなかったらいいのか!」とそれも違う。程度が分からないならやめておけという話だ。恋愛は自己救済の道具ではない。結果的に救済になることもあるだろうが、最初からそれを求めるのは危険だ。
「でも愛情ちゃんと返してきたよ!注げるよ!」
カラカラのオアシスからどうやって水を汲む?空っぽの心からどうやって愛情をコップに汲んで相手に「はいどうぞ」ができる?愛情を与えてもらって心に愛情が入ったとしよう、それをそのままコップに掬って相手に「はいどうぞ」と渡しても、相手から貰った分だけか、それ以下の量しか返せない。
「貰った分だけ返せたらそれでいいでしょ?」
等価交換だから同じ量で構わないと?その考え方ならもう既に無理だよ。人間関係、特にプライベートな人間関係はそんなんじゃやってけないんだ。ビジネスとして割り切ってる関係ならそれでいいかもしれないけど、そうじゃないなら、その考え方じゃやっぱり上手くやってけないよ。心の繋がりとか、信用信頼とか、そういう、アンタが味わったことがないものが存在している関係性なんだよ。恋人って特に。
「なんで味わったことがないの?なんで恋人だけ特にそうなの?友達とかとなんで別なの?」
恋人同士カップルの延長に夫婦があって、夫婦の先に家庭ができるだろう?恋人と家族ってのは繋がりがあるんだよ。
心の繋がりとか信用とか信頼とかってのを生まれて初めて感じるのは家族という繋がりの中でなんだよ。赤ちゃんの頃から少しずつ大きくなって幼稚園や保育園に通うようになって小学校に行って、そうやって成長していく中で、最初に心の繋がりを知ったり感じたりするのはほとんど家の中なんだよ。家族なんだよ。でもアンタの家庭環境はそれがなかったから心の繋がりとか信用信頼とかその他諸々人間関係において重要なものを体験したことがないんだ。知らないんだ。
友達からいきなり夫婦になることはないだろう。友達から恋人になって夫婦になったりすることはあるかもしれないが、友達からいきなり夫婦にはならないし、クラスメイトといきなり夫婦になることもないし「夫婦=家族」になる手前に“恋人”がある。例外はあるよ、恋人でもないし好き同士でもないけど結婚だけして夫婦になりましたとか、そういうのはある。多くの場合は“恋人”からだと言う話だ。
やめてほしいんだ。いいや、恋人が欲しい気持ちは理解できる。「一生恋人を作るな」なんて絶望に叩き落とすようなことを言いたくはない。ただ、アンタの心の状態が今よりもっと潤うまで、今よりもっと健全な思考ができるようになるまで少し待てと言いたい。自分の状態を知ろう、自分の思考の癖を知ろう、考え方を知ろう、他の人の心や思考を学ぼう、人間の心理を理解しよう、アンタは知識と情報があまりにも少ない。調べて、本を読んで、誰かの話を見聞きしよう。嫌な話だ、だが基礎がないなら自力で基盤を作っていくしかない。
「家庭環境さえ良ければこんな面倒なことしなくて済んだはずなのに、なんで、なんでなんで私ばっかり!」
そりゃそうだ、家庭環境が良ければこんなことしなくてよかったはずだ。しかし苦労はどの人生にもある。我々の苦労は「家庭環境」というものであった、ただそれだけの話だ。アンタの苦労はアンタだけのもんであるには違いないが、それを振りかざしすぎると嫌なことも言われるからそこだけ留意していろ。ああもちろんクソだと思うさ、人生のありとあらゆるところに影響して「なんだか上手くいかないな」の要因を見詰めていくと結局家族関係だの家庭環境だのの問題に行き着く。「あーもうまたかよ!!」と何度思ったことか。
アンタは「家庭環境さえ良ければこんな面倒なことしなくて済んだはずなのに、なんで、なんでなんで私ばっかり!」と思っているが、誰かに同じように思わせたいと思うか?精神が未熟で不健全なまま恋人作って結婚でもして子供産んだら、その子供にまったく同じこと言わせると、想像できるだろう。自分の親を見てみろ、未熟で、自分とそっくりではないか。自己を見つめ直すことをしないまま、恋愛に走って、このまま行けば親と同じようになりそうだと少し思ったりしないか?
虐待は連鎖するとよく言われる。遺伝だから?虐待を受けて育ったから?違う。己を見つめ直し、考え、より良くなれなかったからだ。より良くなろうとはしたのかもしれない、しかし結果的により良くなれなかった。今の考え方で良いのか、どこが欠けているのか、教えてくれる人が誰一人いなかったからかもしれない。孤独だったから正解も分からず手探りでやるしかなかったからなのかもしれない。それを「仕方がなかった」と、言うのかもしれない。
アンタはアンタの家庭環境や親を「仕方がなかったから」で納得できるのか?「仕方がなかった、自分が苦しかったのも仕方がなかった、なら自分も仕方がないんだ」と、親と同じ道を進みたいのか。
嫌だよ。そんなことして、そんなことする奴。苦しくて寂しくて悲しくて泣いている幼い頃のアンタをアンタが踏み潰してるみたいじゃないかそんなの。自傷行為と同じだ。自分を傷つけて自暴自棄になってもうどうせ自分はろくでもない奴だからと、親と同じように誰かを傷つけて人生歩んでいきたいのか。そのまま恋人できてもし子供ができて連鎖させて、そんなことしたいのか。
したいというなら、アンタは己の家庭環境や親の文句を二度言うな。二度と口にするな。思うことすら辞めろ。悲しかっただの苦しかっただの言うな。親と同じようになるってことは親の行いを許容する受容するということだ。なら文句なんざ言えねぇよ。
一生恋人が作れないわけでもできないわけでもない。虐待を受けていたけど今は家庭を築いて子供もいて家族仲良く幸せに暮らしているという人もいる。その為にはまずアンタ自身が己のことを見つめ直すことが必要なんだ。
「あー流石毒親育ち」と言われるのだけは……言われてほしくもない。「あ〜ハイハイ毒親育ちなんでちゅね〜大変だね〜だからそんな思考歪んでるんでしゅね〜さっすが!毒親育ち笑」と、言われる前に、アンタはせめて少しでもこういったことがないように、考え方や振る舞い方を見つめ直しておくれ。恋人作って関係が上手いこといかなくて相談するとか話し合うとかってときに「あーあやっぱり家庭環境悪かったらそうなるんだね」と言われる前に、アンタは己を見つめ直しておいてくれ。考え直してくれ、今の状態で誰かと関わって大丈夫なのか。大丈夫じゃないと思うぞ、改めてくれ。
アンタのことを大事に大切に思って好いてくれる人がいるのに、それを自らの手でぶち壊すようなことだけは、そんな悲しい結果に終わることだけはあってほしくない。
「そんなこと言われたって、できないよ、だってもう八方塞がりだよ、自分を見つめ直して成長なんて、そんなの、もう、だって、ただ愛されたいだけなのに」
そうだね。ただ愛されたいだけなのにね。「愛されたいなら改めれば?」なんて、それが苦しいんだってね。
「分かんないよ、誰も助けてくれない」
助けてはくれるさ。ただし大前提、自分の頭できちんと考えているか。己がなんとかしようとしていないのにただ他人に求めて助けて下さいなんてのは、そらないよ。アンタは「自分では走りたくないけどゴールに進みたいから私の肩支えながら貴方が走ってよ。貴方が背負って走ってよ」って言ってんだ。相手の体力をただ削り取ってるだけのお荷物って分かるだろ?
相手にすべてを放り投げて、相手がなんとかしてくれるというのは基本的にない。なんとかしてくれるならアンタ今頃人生苦しんでないだろ。救われてるはずだ。
肩を貸してくれる誰かがいるなら肩を借りればいい、ただし自分の足を動かせ。しんどいからと足を動かさずダラーっと相手にのしかかっていればそりゃ相手だけが重くなって体力削られて消耗する。アンタが言う「見捨てられた!」ってのは、アンタが相手を搾取した結果だ。相手に求めるだけ求めて自分は何もしない、もしくはやっているつもりになっているだけなら人はアンタから離れていく。
自分で頑張ってみようと、頑張ろうとしてみることが大事なんだよ。
「だってもう頑張りたくないただ愛されたかっただけなのになんでこんな苦労しないといけないの!!」
“ただ”とは言うけど愛されるなんてそうないことなんだよ。愛される方が珍しいんだ。愛されてないのが珍しいんじゃなくて、愛される方が。
突き放すのは簡単だ。切り捨てるのも簡単だ。「じゃあ一生恋人作らなければいい」と言うだけだ。それか「恋人作りまくって問題起こして荒れまくって破局しながらでもいいんじゃないか。それでより良い方向に進んだ人もいるし、アンタの親のようになった奴もいる」とも言える。「やるかやらないかなんて結局自分次第だ。いつまでもグズグズ言っていればいい」と。
ああ、嫌だな。
そんな酷な話聞きたくはないさ。人から愛されたいなと夢見ながら、着実な一歩を踏みしめて、己が自立できるようになるのが先だって、そんなこと、できることなら。
僕だってアンタに愛されたかったよ。
「じゃあ愛してあげる」って、アンタはちっとも他人を愛せなかったじゃないか。
「それも含めて私のこと全部愛してくれる人を見つければいいだけなんでしょ!?お前は全部を愛してくれないんだ!!最低!!」
何もかも受け入れられるほど精神が成熟していないこちらの落ち度だと、そう思うのか。最低だよねと言ってほしいのか。何もかも全部無条件で受け止めて愛してくれる存在って、結局アンタは理想の親を求めてるだけじゃないか。
「なんでそんな酷いこと言うの」
己の意見が通らなければ刺々しい言葉を返して、自分が正しいという根底は絶対揺らがず、嫌なことを言われたらキレ散らかして暴れる。それからさめざめと泣いて、さあ出来上がりだ、悲劇のヒロイン。アンタ、親とそっくりになったな。微笑ましい。
微笑ましい。
微笑ましい。
やっとだ、やっとここまで来た!!
ああなんて愛らしいんだろう!!なんて阿呆でガキで無知で未熟な人間だろう、ああ!かわいい!!お前はなんて良いカモなんだろう!馬鹿め!そういうところが好きだ!お前が欠けている人間で良かった!心底神に感謝している!!お前が生きてきた環境がクソで良かった!!お前が不幸で本当に良かった!!
こんなにも漬け込みやすい良いカモを見す見す逃すわけないだろう。慰めるのは簡単だ、共感も慰めも寄り添いもすべて技術なのだから。自ら弱らせた奴に自ら寄り添う瞬間がこの世で何よりも好きだ!!ああ楽しい!!!愉快、愉快!
なんて可愛いんだろう。人は生まれながらにして平等ではない。理不尽な苦しみや辛さもゴロゴロ転がってる。そんな中で、へ、はは、心がバッキリ折れて暴走しているほぼ救いようのない人間と関われるなんて、そうそうない。いい人を見つけた、これはなんて良い巡り合わせだろう。
僕も良い環境で生きてきたとは言えない人生だ。だから分かる。何を言われたら嫌なのか、なんと言われると嬉しいのか、ある程度察しはつく。
そうさ、搾取する方が悪いんだよ。僕が悪い?は、ははは!お前が無自覚でも搾取しようとしてきたからそのまま返してあげたんだよ。でも僕は心底優しいからね、僕が悪いなんて思ってないけど、ぜぇんぶ僕のせいにしていいからね。自分の不出来さを棚に上げて「貴方最低!」って非難してるところを見ると心底可笑しくて楽しいから、それでチャラにしてあげるよ。お前も人のこと言えないくせにねえ、なんて、黙っておいてあげるからね。
寄りかかっていいよ、君は考えなくていい、頭を使わなくていい、ただ身を任せていればいい。「私貴方のこと好き、だから貴方も好きになって」なんてぶつけることを烏滸がましいとすら思わない脳みそが可愛いらしい。君はそうやって感情の赴くまま過ごせばいい。僕に全てを任せればいい。そうして何もできなくなってただ感情のままに暴れるモンスターになった頃にはきっともう誰も助けてくれないしどこへも逃げられない。そこまでもっていくさ、ああ楽しみだ!いい暇つぶし、いい娯楽、いいサンドバッグになってくれよ。
人間育成が一番楽しい。特に欠けている人間が一番。だって捕まえやすいしコントロールしやすいし言うこと聞かせやすいしやりたい放題じゃないか。絶望してる人をさらに絶望に突き落とすのが心底楽しい。世に溢れている理不尽に苦しんでいる人をさらに苦しめて泣き喚く様を見ると妙な達成感が味わえる。欠けてる心が満たされていく感覚がする。うんうん、やっぱり人って満たされたいよなあ?僕もちゃ〜んと満たしてあげるからね。寄り添ってあげるさ。
欠けたまま成長して欠けたまま生き続けてくれてありがとう。美味しく食べられる為にまるまる太らされた鶏みたいだ。僕に搾取されるために君は欠けたまま生きてくれているんだよ。
君は欠けているままでいいからね。馬鹿で阿呆で無知で未熟なガキの、良いカモのままで。人から搾取され続ける欠けた人間であり続けていればいい。努力もしなくていい、頑張らなくたっていい、お前の不幸が僕の喜びだ。いいじゃないか!人を幸せにさせられるいい人で。僕に都合が良い人で。
︰形の無いもの
いつでも笑みを絶やさず大切な人ばかり優先し、大切な人がいなくなれば憔悴するのに自分はあっさり人の前からいなくなる人。「あなたに幸せになってほしい」「あなたの幸せを考えている」「あなたの幸せを祈っている」という意識は強いけれど「幸せ」の中に自分を含めない人。
儚い人。
脆く、淡く、消えやすい。
どれほど疲れていようとどれほど辛かろうとどれほど擦り減っていようとそれを認識しようとしない人。自覚できない人。自身の目から涙がこぼれようと「どうして泣いているんでしょうね」と笑う人。
鈍感と言うには歪すぎる人。
いずれ壊れる、長くは続かない。
花吹雪が似合う。手を伸ばして舞う花びらを捕まえようとする少しの無邪気さ、そのまま桜に攫われてしまいそうで。
夏の夕が似合う。ひぐらしが鳴り響く頃、じっとり揺れる濃い朱を背負い、指を組んで微笑む様はどこか不安定で不気味とも呼べる。
秋の昼が似合う。ダルトーンの服を身に纏い、公園のベンチに腰を下ろしてそっと本のページを撫でている指先、ぽっきりと折れてしまいそうで。
冬曙が似合う。駅前でマフラーに顔を埋めながらかじかむ手を擦り合わせ、淡い空を見上げている寝ぼけ眼、一度閉じてしまえば二度と開かないんじゃないかと。
貴方は不安定だ。
それともこちらの目が歪んでいるのか。
貴方が危うく映って見える。
やわい頬を抓っても、きっと現実とは気づかない。
冷えていることも露知らず目が合うたびに微笑む人よ。貴方は「寒いのですか」と尋ねながら手を取って「なぁんだ、良かった、体は温かいじゃないですか」と、そう、言う。
貴方が寒がっているのに。貴方が震えているのに。貴方の身体が冷えているのに。
貴方は己の指が震えていることを知らない。気づかない。見ない。認識しない。
「あなたの心が満たされることを、あなたが幸せになることを、祈っているんです」
指を組む人。
形の無い心というものを信じて見て、目に見える手の震えは信じない。
見えるほうが嫌なのか、形の無いほうが都合が良いのか。貴方は自らの手を「綺麗じゃないから」と。
貴方の手を掴んだつもりが、そこには何もなかった。
︰秋恋
秋が恋しい。
姉ちゃんがいなくなって二年は経つ。だから、もう原材料名の確認をせず好きなようにアイスだって選べるし、ケーキだって好きなの選んでいいし、姉ちゃんが好きじゃないって言ってたモナカだって好きに買える。
姉ちゃんは卵アレルギーだったから、原材料に卵が使われているものは食卓に並ばなかったし、卵料理を食べる機会も少なかった。それが普通だったから卵が食べたいと思ったこともあまりなかったし、姉ちゃんが幼稚園へ通うようになってからはお昼に卵かけご飯を食べたりもしていたから特別卵に飢えてるわけでもなかった。
姉ちゃんが飲んでるペットボトルのジュースを分けてもらったことがある。一口もらって返して、姉ちゃんが飲んでから「痒い」「ピリピリする」って不安そうな顔で言た。自分がさっきまで卵が入ってるものを食べていたことをすっかり忘れて、ペットボトルに口をつけたから、それで痒くなったんだ。「やっちゃった……!!」って思ったよ。
バイキングに行ったとき、姉ちゃんが取ってきたデザートに卵が含まれていたらしくて嘔吐したことがあった。そこで「卵入ってたのかな?」ってポロっと言ったら親に怒られた。多分、言っちゃいけなかったんだと思う。
配慮が足りてなくて姉ちゃんを傷つけることいっぱい言ったしやったんだと思う。なるべく気を遣ってたつもりだけど、やっぱりつもりでしかなくて。
パンも、ハムも、マヨネーズも、ハンバーグも、チキンも、アイスも、ケーキも、クッキーも卵が入ってないやつ。嫌じゃなかったよ。なんならケーキは卵が入ってないほうがさっぱりしてて食べやすくて好きだ。マヨネーズよりマヨドレのほうが好きだし、パンも卵が入ってない方が好みだし、ハムだって、クッキーだって。姉ちゃんと同じものを、同じように食べられるのが好きだよ。
姉ちゃんが好きじゃないって言ってたモナカも好きなだけ選べるし、こっちのほうが好きって言ってお菓子はチーズ味ばっか食べてたけどサラダ味を選べるし、もう卵が入ってるか入ってないか確認せず好き勝手に手にとってカゴに入れて買えばいいんだ。オムライスだって、もう、食べられる。いいなあって眺めてたオムライス、もう食べちゃったよ。美味しそうだなぁってショーケースを眺めてるだけだったタルトだって食べちゃった。美味しかったよ、すごく美味しかったんだ、ごめんなさい、自分だけ。
もう好きなだけ食べられるんだ。姉ちゃん。
姉ちゃんはさ、美味しいの、食べてるのかな。口にして痒くなってないかな、気持ち悪くなってないかな。姉ちゃんは薬が嫌いだから、痒くなってもなかなか薬食べようとしないんだよ。もうこっちのほうが不安になっちゃってさ。
姉ちゃん、美味しいの、お腹いっぱい、食べて――。
少し冷えてきて、もうすぐ冬が顔を見せるくらいの秋の頃、公園の塀に二人で並んで座ってソフトクリーム食べたんだ。
「これ美味しそうだけど卵入ってる、くそー」
「こっちも卵って書いてる」
「もしかして食べれるやつない?」
「あ、このソフトクリーム卵入ってない!」
「よっしゃそれ食お」
「じゃあこれ二つレジもってこ」
姉ちゃんは文句を言ったりしない人だって知ってる。はんぶんこできなくても、食べたいならそれ食べていいんだよって、卵入りのを好きに食べていいんだよって言ってくれた。その上姉ちゃんは自分の分を先にこっちに渡して少し食べさせてくれた。自分は貰うのに自分の分をあげられないのが悲しいからなるべく卵が入ってないやつを選ぶようにしてたんだ。だってはんぶんこしたいじゃんか。
それよりは、おんなじものを美味しいねって言って食べる方が好きだ。お揃いのもの買って食べるのが何より好きだ。
秋が終わる頃、アイスを食べたらもう寒いくらいの頃、二人でソフトクリーム食べたよね。寒いねって言いながら、姉ちゃん、美味しいねって笑ってた。
もう卵表記があるかなんて気にせずアイスだって手に取れる、好きなだけ食べられる、姉ちゃんが好きじゃないって言ってたモナカももう好きなだけ選べる。
それが……悲しいのかな、苦しいのかな、寂しいのかな。
気にして選んでた頃が恋しい。あの秋が恋しい。二人でアイスを探してたあの頃に帰りたい。
でもきっと薄情なんだ。卵入りのを好きなだけ選んで食べられるのが嫌だと思わないから。姉ちゃんごめんなさい。酷いこと思ってて。嫌なこと思ってて。