よあけ。

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7/8/2024, 5:21:09 PM

:街の明かり

 嬉しそうに「好きな人ができた」なんて言うから、なんかムカついた。は?なんで?自分がいるのに?って言葉が喉までせり上がってきたけど、やっぱり続けて嬉しそうに「好きな人がいるって幸せなんだな」なんて言うから、急にどうでも良くなった。こいつは今までこっちのこと好きじゃなかったんだなって。いや自分もだけど。こっちだって別にお前のこと恋愛的に好きとかじゃないよ。でもムカついた。恋人なんかいらないじゃん、面倒くさいだけだよ。なのにさ、お前、そんな幸せそうに話しちゃって。勝手にしろよ。お前の惚気とか今後ぜっっってえ聞いてやんねえ。

 全ての荷解きを終えてベッドに飛び込む。窓の外を見やると青紫の空が赤色を覆い隠そうとしていた。ふと気になって体を起こし、側にある窓を覗き込む。
 六階からはいろんな景色が見えた。少し遠くの方にはオレンジ色やレンガ色の細長い建物がギュウギュウに建ち並び、もう少し視線を落とせば広めの公園があって、黄色い葉をつけた木がずらりと並んでいる。オレンジ色の街頭が石畳をぼんやり照らし出しているのが物珍しい。このオレンジの光も、石畳を歩き慣れるのにも、しばらくかかりそうだ。
 見知らぬ街で一人、ここで生きていくのだ。あいつから逃げるように飛び出してきた、あの街へはしばらく帰らない。帰りたくない。お前の顔なんか見たくない。

 道行く人々を眺めながら、そのコートあいつが着てたやつに似てるなとか、そのスニーカーあいつが好きそうだなとか、数年経って容姿も趣味も変わってるだろうに昔のお前のことばかり考えている。だって今のお前のことなんて何一つ知らない。
 メッセージを未だに送ってくれてるみたいだけど、通知だけ見て返信はしてない。そのくせ今頃あいつは何をやってるだろうなんて思ってる。
 誰かと揉めて怪我でもしてんだろ。だってあいつ、喧嘩っ早いし。相変わらず鈍くさくて、不器用で、要領悪くて、色んなことに苦戦してるに違いない。最近ひとり暮らしを始めたってメッセージが届いてたっけ。あいつ家事とかできてんのかな。レンジでさつまいもを炭に変えたことまだ覚えてるかんな。それからタルトを床にぶちまけたことも。人の誕生日覚えるのが苦手なのにせっかく覚えてやって、しかもお前が好きなベリーのタルトまで選んで買ってきてやったってのにさ。鼻歌混じりに冷蔵庫から持って来るほど上機嫌だった奴が、一瞬でやっちまったって顔で青ざめるもんだから、なんかもういっそ面白くて。

 勝手に裏切られたみたいな気持ちになって飛び出してきて、一人で生きていくなんて豪語してたくせに、数年経ってもお前の事ばっかり思い出して考えてる。

 忘れられない日々を作ってしまったからこの気持ちを飲み込むことができない。でもやっぱりもうそろそろお前に会いたい。だから、窓から見えるあの木の赤い葉が全部茶色くなって落ち葉になったら、最後の一つがひらひら落ちてしまったら、いよいよお前への気持ちを打ち消して、何食わぬ顔でお前の部屋の扉をノックする。久しぶりだなって。そしたらきっと「今までどこで何してたんだ!?」とか「返事くらいよこせよ!」とか言ってくるんだ。まあまあって誤魔化して、手土産に持ってきたベリータルト渡しながら「落としたりすんなよ」って揶揄ってやる。それでどつかれたら、すぐキレんじゃんやっぱお前相変わらずだわって笑って言ってやる。もし別人みたいに変わってたってそれはそれで構わない。だってお前のことなんて好きじゃないから、どんなお前でも別にいいよ。

7/7/2024, 2:58:36 PM

:七夕

今日は7月7日なのに珍しく晴れたね。
この時期の晴れって好きだ。強い日差しに、青い空が濃く広がって、わくわくする。もう夏の空をしてる。

ここは田舎だから星が良く見えるよ。
あれがベガ、あれがアルタイル、あれがデネブで、繋げて夏の大三角。丁度真上にあるねぇ。ベガが織姫で、アルタイルが彦星。


誰かと星を見上げて指差すなんていつぶりだろう。

今日は記憶に残る日だ。きっと忘れたくない日。

指輪を貰った。7.July.って書かれてる。
初めて自分のリングサイズを知った。

果物がどっさり乗ったタルト2切れと4号のいちごのケーキ1台。今日はタルト、明日はいちごのケーキを食べる。

幸せってこういうことを言うんじゃないかな。
消えてしまいたい。ごめんなさい。幸せかもしれない。甘い。甘ったるい。コーヒーが苦い。つらい。苦味すら美味しい。幸せ。甘い。辛い。しょっぱい。寂しくない。幸せ。つらい。

7/3/2024, 8:25:29 PM

:この道の先に

傷口に塩を塗って自傷行為をしている。痛々しい奴。いつまで経っても自罰的だ。他人の所為にしたいのにしきれないハンパな奴。自己保身のためだ。

分かんないな。

本当は可愛くて優しい話が書きたいんだけど。

殴って蹴って暴言を吐いて「ごめん」と怯える可愛らしさ。殴って蹴って暴言を吐かれても「大丈夫よ」と包み込む優しさ。

そういう愛情の話が、書きたかったんだっけ。

嘔吐している姿を見るのが好きだった。
顔を覆い隠して泣いている姿を見るのが好きだった。
殴られて蹲っている姿を見るのが好きだった。

だって可哀想じゃないか。可哀想って愛着が湧く。
だから全部引っぱたいてやりたかった。
違う違う。
抱きしめて“あげた”かった。
そんな貴方も好きだよって。大丈夫、離れたりしないよ、見捨てたりしないよって。

でも貴方は私から離れちゃった!

どうして?何故?おかしいよな。あり得ないだろ?

エゴの塊だったから?

そっか。ダメだったか。私じゃ駄目だったんだ。結局お前に必要だったのは男だったんだな。何が自立した女だよ。

幻想を抱いてたんじゃない。貴方があまりにも可哀想だったから、非現実的なことばっかり言うから、いつの間にか酔ってたみたいだ。それって結局、幻想を抱いてたってことか?

吐き気を催す酒臭さが忘れられない。

男も女も嫌いだ。そもそも人が嫌いだ。信用ならない。家族も恋人も糞食らえだ。恋愛なんて反吐が出る。ああ本当に!!!!本当に、本当に、美しい話にばかり憧れる。

フィクションが一番美しい。フィクションだけでいい。愛情の話はフィクションだけがいい。

現実と物語をないまぜにしてるのは己だというのに?

仕方がないじゃないか。宙ぶらりんなやつは何やっても宙ぶらりんさ。

可愛くて、優しい話。

いい子ちゃんじゃない。こうやって他人の所為だって思ってる。私何にも悪くないって。

「ああ本当にいい子ちゃんじゃないよな」

やっぱりあのとき水を渡してあげればよかったのかな。

大人はズルい。何でも知ってる。私は何にも知らなかった。人の慰め方も知らなかった。放置してりゃ良いって思ってた。泣いてても放ったらかしにしとけばいいって。勝手に泣き止むんだから、それでいいでしょ?って。それしか知らなかった。

「このやり方しか教えてもらってない」って、憎んでるのかな。

でもこの冷酷さも好きよ!冷たければ冷たいだけ優しい。私にとっては痛いほど。痛い。優しくない!全然好きじゃない!!

可哀想でヒドい話。

自責するのももう飽きた。どれだけ自責しても無駄だわ。自分の粗を探しても見つからない。馬鹿馬鹿しい。生まれてきた事しか思いつかない。

殴られてたのに助けに入れなかったことか?見殺しにしたからだろ。「いい、来なくていい、大丈夫」って言われて正直ホッとした。正直ホッとしたんだ。来なくていいって言われたから行かなくていいんだって、だって貴方が来なくていいって言ったからって、自分は悪くないって、「行こうとしたのに止められたから」ってテイで、私は突っ立ってた。

ごめんなさい。だって、ふざけたこと抜かしてる。

……抱きしめたことなんてあったか?

そうか。ヒドい奴だったんだ。冷たくて、優しくない奴。行動に移してないなら思ってないのと同じ。

可愛くて優しい話が書きたい。でもそれ知らない。知りたくない。そんな生ぬるいものでいいですなんて言ったら、今までの自分を否定することになる。頑張って耐えてきたのに?

じゃあいつまでもいつまでも苦しんでてください。お前が歩む先ずっとずっと自分で首を絞め続けてください。いつまでも未練タラタラ引きずってください。突き放されたら傷ついて泣くくせに自ら人を突き放すようなこと言ってるのは病気です。

可愛いって、可哀想。

傷口に塩塗りたくるのが趣味ならそれでいいよ。好きなだけ痛がって苦しめばいい。苦しんでるお前も私も可愛い!

7/1/2024, 5:36:00 PM

:窓越しに見えるのは

分厚い窓越しに物語を見ている。

はみ出た本心をつまんで引きずり出して優越感に浸る。繊細な心を引っ掻いてボロボロ崩して人を泣かせるのが楽しいって、よっぽど残酷だな。他人のこと玩具だと思ってそうだ。

歌声オルゴール。喉からオルゴールの音がする。飲み込もうとしたけど喉で引っかかってしまったみたいだ。

マジックで片腕が飛んでいってしまったから捜索中だ。見かけたら持ってきてくれないか?

夢から醒めたら落下して、足に大量の画鋲が突き刺さったの。そうしたらまた醒めて、今度は帽子屋さんが主催のお茶会が始まってた。美味しく紅茶を飲んでいたのに、うさぎさんに何か尋ねたら、スパンと足首から切り落とされて、私の足首は勝手に歩きだして何処かへ跳ねながら行ってしまった。私の両足、無くなっちゃった。せっかく可愛い赤い靴を履いていたのに。

盲目となった王子の両目にラプンツェルの涙が落ち、王子は視力を取り戻す。ああ!素敵な話!……そもそもどうして妊娠したお后様はラプンツェルが食べたくて食べたくて仕方がなかったの?ねえどうしてサラダにして食べたのに更にまた食べたくなっちゃったの?ねえどうして?ラプンツェルってそんなに美味しいの?それにどうしてお后様がラプンツェルを食べてたからって生まれた娘を「ラプンツェル」って名前にしたの?

栄養不足、そういう設定、ねえねえ煩い。

解釈でしかない。それは理解ではない。理想は理想、夢は夢だからこそ良いのだ。さあ、早く忘れてしまえ。

お話なんて綺麗にまとまればそれでいいの。誰かが勝手に解釈してくれるわ。

人に伝える気なんてさらさらない。勝手に感じ取って勝手に読み取って勝手に解釈すればいい。「正しい解説」をする必要があるのか?

人が他人を理解できるはずがない。精々「分かっているつもり」でしかない。どれだけ言葉を交わそうとどれだけ言葉を尽くそうと人が他人を100%理解するなんてあり得ない。

「分かってるふりしてくれてありがとう」

分厚い窓越しに物語を見ている。手を伸ばしても窓にぶつかってしまう。触れて確かめることはできない。だから全部解釈でしかない。

6/30/2024, 5:42:38 PM

:赤い糸

鼻血と鼻水が混ざったドロドロの赤い糸が伸びていく。僕の鼻と貴方の拳を繋いでいる。

「ごめん、ごめんなさい……こんなことするつもりじゃなかった」

鉄臭い、汚い、ベチャベチョ。鼻、折れてないといいな。ジンジン、痛いな。唖然とした? そんなことない。また、殴られただけ。

「痛いよな、今氷を取ってくる、冷やさないと……」

鼻の奥がドクドク波打って鼻水を生成している。切れたとこから血液が流れて鼻血が垂れていく。赤い糸、汚いなぁ。

赤い糸……ねえ、どこ行ったの。僕をおいて、どこかへ行ってしまった。僕をおいて、行かないで。血まみれ、僕、あのとき、どうしたら良かったのかな。違う選択を取っていたら、僕は今でも……。赤い、糸、あかぁい血で、縫い合わせてしまったかもしれない。違う生地同士を、無理やり。血まみれにしてしまった。

――つめたい

「少し我慢してね」

鼻に氷を押し付けられて、今度はキンキン頭まで痛くなってきた。グリグリ押し付けられて体温で溶けた氷が液体となって、鼻血と絡まり口周りを染めていく。ああ、汚いなぁ。鉄の味。

お前の拳も血まみれで、全く痛そうじゃない。暴力で繋がった赤い糸。結局こういう濃度にあるのだと思う。お前も俺もクソ野郎だ。暴力賛成と笑ってないまぜにしてなあなあにしている。

「もう十分冷えたかな。念の為病院に行こう。折れてなければいいんだが……」

痛い。優しさ。肉体。それでいい。暴力だげが肯定してくれる。痛い。怖い。ずっとずっと罰してくれ。ずっとずっと裁かせてくれ。ずっと、ずっと。

「……うん、ありがとう。ありがとう。ありがとう」

ありがとう。許してくれてありがとう。

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