よあけ。

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:繊細な花

いい匂いがする。花畑でふわりと香る甘い蜜のような。「わたしは癖毛だから、あなたのストレートな髪が羨ましいな」なんて言っていた、ゆるくウェーブがかった柔らかな黒髪の感触。湖の水面を思い起こすような美しさ、ふわふわの綿あめを連想させる可愛らしさ、貴方の髪はそのどちらもを持っている。

貴方にリボンが垂れたシュシュを贈った。艷やかな質感の黒いシュシュ。貴方はあまり派手な物を好まないから、黒髪に溶け込む黒色を。手渡したとき、目を見開いてからほころぶように笑って喜ぶ貴方に、胸の奥がチリチリと焦げていくような感覚がした。次の日髪を右横に持ってきて三つ編みし、前で垂らして黒いシュシュで留めているのを見たときは、想像通りの髪型で、想像通り似合っていて……。

今でも使ってくれていたりしない?

そう、そうよね、だって私達、ただの友達だものね。私ってば高慢よね。恋人でもないのにこんなこと思って。

でも、恋人になりたいとかそんなのじゃないの。私はただ、貴方が好きなだけ。

最初に出会った頃は今よりずっとくるんとした癖毛だった。可愛らしい、くせっ毛。華奢で、話し方が柔らかくて、フワッとどこかへ飛んでいってしまいそうな危うさがあって私、私……貴方と友達になりたいって、貴方の近くにいたいって。一目惚れだった。

束の間の夢。きっと勘違いだって言われる。それは恋とか愛とかじゃなくて友情、親愛が行き過ぎてるだけって。そうね、私は貴方の恋人になりたいわけじゃない。貴方と人生を共にする覚悟もない。ただ、美しい花にときめいて、見惚れて、美しい花瓶に生けたいと思うような、そんな気持ち。

貴方のことを繊細な花だと思って触れてきた。触れたらすぐにぽっきり折れてしまうような、ひらひら花弁が舞ってしまうような、繊細な花。大事に、壊れないように、そっと、優しく。

花のような甘い香りがする、ウェーブがかった柔らかな黒髪に、そっと。

……くせっ毛、もうやめたんだね。

後悔があるとしたら、貴方が褒めてくれた髪をバッサリ切り落としてしまったことかもしれない。今更ね、貴方に髪を手ぐしで梳いてほしかった、なんて、気持ちに気づいたの。

6/26/2024, 12:47:34 AM