:この道の先に
傷口に塩を塗って自傷行為をしている。痛々しい奴。いつまで経っても自罰的だ。他人の所為にしたいのにしきれないハンパな奴。自己保身のためだ。
分かんないな。
本当は可愛くて優しい話が書きたいんだけど。
殴って蹴って暴言を吐いて「ごめん」と怯える可愛らしさ。殴って蹴って暴言を吐かれても「大丈夫よ」と包み込む優しさ。
そういう愛情の話が、書きたかったんだっけ。
嘔吐している姿を見るのが好きだった。
顔を覆い隠して泣いている姿を見るのが好きだった。
殴られて蹲っている姿を見るのが好きだった。
だって可哀想じゃないか。可哀想って愛着が湧く。
だから全部引っぱたいてやりたかった。
違う違う。
抱きしめて“あげた”かった。
そんな貴方も好きだよって。大丈夫、離れたりしないよ、見捨てたりしないよって。
でも貴方は私から離れちゃった!
どうして?何故?おかしいよな。あり得ないだろ?
エゴの塊だったから?
そっか。ダメだったか。私じゃ駄目だったんだ。結局お前に必要だったのは男だったんだな。何が自立した女だよ。
幻想を抱いてたんじゃない。貴方があまりにも可哀想だったから、非現実的なことばっかり言うから、いつの間にか酔ってたみたいだ。それって結局、幻想を抱いてたってことか?
吐き気を催す酒臭さが忘れられない。
男も女も嫌いだ。そもそも人が嫌いだ。信用ならない。家族も恋人も糞食らえだ。恋愛なんて反吐が出る。ああ本当に!!!!本当に、本当に、美しい話にばかり憧れる。
フィクションが一番美しい。フィクションだけでいい。愛情の話はフィクションだけがいい。
現実と物語をないまぜにしてるのは己だというのに?
仕方がないじゃないか。宙ぶらりんなやつは何やっても宙ぶらりんさ。
可愛くて、優しい話。
いい子ちゃんじゃない。こうやって他人の所為だって思ってる。私何にも悪くないって。
「ああ本当にいい子ちゃんじゃないよな」
やっぱりあのとき水を渡してあげればよかったのかな。
大人はズルい。何でも知ってる。私は何にも知らなかった。人の慰め方も知らなかった。放置してりゃ良いって思ってた。泣いてても放ったらかしにしとけばいいって。勝手に泣き止むんだから、それでいいでしょ?って。それしか知らなかった。
「このやり方しか教えてもらってない」って、憎んでるのかな。
でもこの冷酷さも好きよ!冷たければ冷たいだけ優しい。私にとっては痛いほど。痛い。優しくない!全然好きじゃない!!
可哀想でヒドい話。
自責するのももう飽きた。どれだけ自責しても無駄だわ。自分の粗を探しても見つからない。馬鹿馬鹿しい。生まれてきた事しか思いつかない。
殴られてたのに助けに入れなかったことか?見殺しにしたからだろ。「いい、来なくていい、大丈夫」って言われて正直ホッとした。正直ホッとしたんだ。来なくていいって言われたから行かなくていいんだって、だって貴方が来なくていいって言ったからって、自分は悪くないって、「行こうとしたのに止められたから」ってテイで、私は突っ立ってた。
ごめんなさい。だって、ふざけたこと抜かしてる。
……抱きしめたことなんてあったか?
そうか。ヒドい奴だったんだ。冷たくて、優しくない奴。行動に移してないなら思ってないのと同じ。
可愛くて優しい話が書きたい。でもそれ知らない。知りたくない。そんな生ぬるいものでいいですなんて言ったら、今までの自分を否定することになる。頑張って耐えてきたのに?
じゃあいつまでもいつまでも苦しんでてください。お前が歩む先ずっとずっと自分で首を絞め続けてください。いつまでも未練タラタラ引きずってください。突き放されたら傷ついて泣くくせに自ら人を突き放すようなこと言ってるのは病気です。
可愛いって、可哀想。
傷口に塩塗りたくるのが趣味ならそれでいいよ。好きなだけ痛がって苦しめばいい。苦しんでるお前も私も可愛い!
:赤い糸
鼻血と鼻水が混ざったドロドロの赤い糸が伸びていく。僕の鼻と貴方の拳を繋いでいる。
「ごめん、ごめんなさい……こんなことするつもりじゃなかった」
鉄臭い、汚い、ベチャベチョ。鼻、折れてないといいな。ジンジン、痛いな。唖然とした? そんなことない。また、殴られただけ。
「痛いよな、今氷を取ってくる、冷やさないと……」
鼻の奥がドクドク波打って鼻水を生成している。切れたとこから血液が流れて鼻血が垂れていく。赤い糸、汚いなぁ。
赤い糸……ねえ、どこ行ったの。僕をおいて、どこかへ行ってしまった。僕をおいて、行かないで。血まみれ、僕、あのとき、どうしたら良かったのかな。違う選択を取っていたら、僕は今でも……。赤い、糸、あかぁい血で、縫い合わせてしまったかもしれない。違う生地同士を、無理やり。血まみれにしてしまった。
――つめたい
「少し我慢してね」
鼻に氷を押し付けられて、今度はキンキン頭まで痛くなってきた。グリグリ押し付けられて体温で溶けた氷が液体となって、鼻血と絡まり口周りを染めていく。ああ、汚いなぁ。鉄の味。
お前の拳も血まみれで、全く痛そうじゃない。暴力で繋がった赤い糸。結局こういう濃度にあるのだと思う。お前も俺もクソ野郎だ。暴力賛成と笑ってないまぜにしてなあなあにしている。
「もう十分冷えたかな。念の為病院に行こう。折れてなければいいんだが……」
痛い。優しさ。肉体。それでいい。暴力だげが肯定してくれる。痛い。怖い。ずっとずっと罰してくれ。ずっとずっと裁かせてくれ。ずっと、ずっと。
「……うん、ありがとう。ありがとう。ありがとう」
ありがとう。許してくれてありがとう。
:君と最後に会った日
「そんな言い方、しなくてもいいじゃん」
こんなものは小手先の技術だとか、自分には才能がないからできないんだとか、そんなもの在り来りだから誰でも思いつくとか、つまらないだとか、他人も自分も下げるような発言ばっかりだったからきっと僕に嫌気が差したんだ。
自分は何でも分かってますよ理解してますよって評論家気取りのウザい奴。一緒に居たって楽しくないどころか気分を悪くするような発言ばかり。ネチネチネチネチいやみったらしくて、人に対する敬意が見えない。一々いやそれはどうのこうの、だからこうでそうでなんとかなんだよなぁって、長ったらしく語る。
ああ、鬱陶しいな、これ。
ひねくれてるとか、思い込み激しいとか、劣等コンプレックスとか、自己肯定感が低くてプライド高いとか、どんどん悪い言い方ばかりできる。
評論家気取りのクソッタレ。
「正論を言ってるだけ」と言う名の持論を振りかざし人を攻撃する幼稚さ。自分の思考こそ正解で正しいと押し付け人を“矯正”しようとする傲慢さ。人に物言えるほどできた人間ではないというのに。器の小さいゴミクズ人間。
僕は、ゴミ箱に頭突っ込んで窒息死でもしたほうが
「そんな言い方、しなくてもいいじゃん」
お前は可愛いな。健気で、優しくて、健康的な思考で。正しくて、正しくて、正しくて、正しくて、最後の最後までずっとずっとずっとお前は正しい。正しい、正しい、正しい。
「思考を自ら否定する必要ないよ。自分の思考を受け入れてみて」「間違いとか正しいとかに囚われなくていいんだよ」「自分の思考で自分の首を絞める必要もない、大丈夫、突っぱねなくてもいい」「大丈夫」「認めてみようとしてみて」「そのほうが楽になれる」「そんな言い方、しなくてもいいじゃん」「大丈夫、そんな酷い言い方しなくたって、どんな考え方でも、人それぞれだよ。どれが良いとか悪いとかじゃない」「いいんだよ」「他人のことも責める必要ないよ。そんな考え方もあるんだね、でいいじゃない」「大丈夫」「いいんだよ」
鬱陶しい。正しい。鬱陶しい。正しい。正しい?
そんな思考もお前の思い込みと勘違いだろ。
聖人気取りのクソッタレ。
「人に悪口を言うとき、実はその悪口は自分が言われたくないことを言うらしいね。私も気をつけなきゃ。だって、自責してます風他責も他責してます風自責だってバレてんだよ。自分でも他人でも誰でもいいから諸共ぶっ刺してやりたいって。ね。
:繊細な花
いい匂いがする。花畑でふわりと香る甘い蜜のような。「わたしは癖毛だから、あなたのストレートな髪が羨ましいな」なんて言っていた、ゆるくウェーブがかった柔らかな黒髪の感触。湖の水面を思い起こすような美しさ、ふわふわの綿あめを連想させる可愛らしさ、貴方の髪はそのどちらもを持っている。
貴方にリボンが垂れたシュシュを贈った。艷やかな質感の黒いシュシュ。貴方はあまり派手な物を好まないから、黒髪に溶け込む黒色を。手渡したとき、目を見開いてからほころぶように笑って喜ぶ貴方に、胸の奥がチリチリと焦げていくような感覚がした。次の日髪を右横に持ってきて三つ編みし、前で垂らして黒いシュシュで留めているのを見たときは、想像通りの髪型で、想像通り似合っていて……。
今でも使ってくれていたりしない?
そう、そうよね、だって私達、ただの友達だものね。私ってば高慢よね。恋人でもないのにこんなこと思って。
でも、恋人になりたいとかそんなのじゃないの。私はただ、貴方が好きなだけ。
最初に出会った頃は今よりずっとくるんとした癖毛だった。可愛らしい、くせっ毛。華奢で、話し方が柔らかくて、フワッとどこかへ飛んでいってしまいそうな危うさがあって私、私……貴方と友達になりたいって、貴方の近くにいたいって。一目惚れだった。
束の間の夢。きっと勘違いだって言われる。それは恋とか愛とかじゃなくて友情、親愛が行き過ぎてるだけって。そうね、私は貴方の恋人になりたいわけじゃない。貴方と人生を共にする覚悟もない。ただ、美しい花にときめいて、見惚れて、美しい花瓶に生けたいと思うような、そんな気持ち。
貴方のことを繊細な花だと思って触れてきた。触れたらすぐにぽっきり折れてしまうような、ひらひら花弁が舞ってしまうような、繊細な花。大事に、壊れないように、そっと、優しく。
花のような甘い香りがする、ウェーブがかった柔らかな黒髪に、そっと。
……くせっ毛、もうやめたんだね。
後悔があるとしたら、貴方が褒めてくれた髪をバッサリ切り落としてしまったことかもしれない。今更ね、貴方に髪を手ぐしで梳いてほしかった、なんて、気持ちに気づいたの。
:好きな色
深紫。ドロドロ病み溶けているときの色。
好きで身に纏っているわけではない。
染み付いているのだ。
冷静を取り繕っている。
正直将来が怖い。これからどうなるかなんて、どうにかするしかない。怖い。だってもうどの道過酷な未来しか待ってない。
ああ嫌だな、それならさっさと
不幸のまま/束の間の幸せを味わったまま
死にたい。
人はいずれ死ぬ。早いか遅いかの違いなだけで。天寿を全うすることが良しとされているのかもしれないが、病死も、事故死も、自殺も、結局死ぬことに変わりない。
一年後、酒を飲んで死んでいたい。淡い期待を抱くことで安らいでいるだけだ。とどのつまり逃避である。
ああでも痛いのは嫌だな。
復讐心ではない。遺書……というか、自殺理由と置き手紙に誰かの名前を書くつもりもない。人を呪うつもりもさっぱりない。静かに、安らかに、自分だけを殺させてくれ。
どうか死にたい程度に鬱に酔っていてくれ。
一年後も深紫でいてくれ。好きで身に纏っていてくれ。
そして透明になりたい。透き通る。最終的にクリアになって。好きな透明になりたい。