お題:優しさ
優しい あなた とても 寛大
あなたの着ている服を汚しても、あなたから借りた物を失くしても、待ち合わせの時間に遅れても、あなたの大事な物を壊しても、私が勘違いして怒っても、あなたは決して怒らない。
寛大な あなた とても 無関心
「所詮他人だからね」「期待してない」
「だから怒りが湧いてこない」
他人に興味が無いのね。
それを私は「優しいあなた」と言っていたのね。
あなた の 優しさ
あなた 優しい?
お題︰海の底
沈んでく あなたの姿
深くかぶったあなたのフード
取っ払ってみたくて
ゆらりゆれてるパーカーの紐
指先かすって再度掴んで
キュッと引っ張るあなたの重み
あっさり引き締まって顔を隠した
そこにいるの どんな顔なの
この紐手放したらあなたは離れてしまう
私に見せてほしいの
あなたの素顔が知りたい
この衝動止められやしない
引っ張られて 沈んでく ごぼり息吐いた
腕捕まれて逃げられない
そのまま深くまで
「海の底 はるかそこまで
お前を引きずりおろしたい」
ニタリ 楽しそうに笑っていた
お題︰閉ざされた日記
つまらないな、と思った。封のされた手紙の束を全て開封し終え、疲れもあったのか浅い感想しか出てこなかった。
この手紙の束は古い家を購入し掃除をしていたときに見つけたものだ。宛名も差出人の名前も無くすべてが不明な手紙だが、おそらくこの家の前の持ち主が書いたものではないだろうか。そんなことが分かったところで結局捨てるのだから無意味だけれど。
……捨ててしまうのは、勿体無い気がした。
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「そう、そう、上手ね」と微笑みかけてくれた先生のような人を愛情と呼ぶのだろうか。
こちらはもういい年した人間だというのにまるで小さい子相手にされたみたいだった。
(へ、へへ、なんだかてれくさいな)
にやけながら頭の後ろをガシガシ掻いた。
たかが一つ当たり前のことができただけだというのに褒められて、甘やかされたみたいで、天にも登る心地。
頭の中のモヤモヤがどこかへ弾け飛んで、薬でも消えなかった憂鬱が砕けて無くなった。人に褒められただけでこんなにも簡単に生命力が湧いて出てくる。
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幸せ、かは分かりませんが、ふとあなたのことを思い出します。あなたの背中を追いかけてここまで来ました。あなたの隣にやっと立てると思ったら、あなたは別人になっていて。あまりの豹変ぶりにあなただと認められず、衝動のまま殴ってしまったこと、よく覚えています。
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去年の誕生日は一緒に食事に行った。今年の誕生日は?あれ!今年の誕生日どこにも行ってないじゃない!
と思ったけれど、部屋に飾ってあったくまのぬいぐるみを見て思い出した。そうだ、このくまさんを貰ったんだった。
忘れてるなんて、なんて薄情な奴だろう。
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「正しい自分」を探してるんだろ。目を閉じていると自分が誰だか分からなくなるからなぁ。周りの状況が見えないと自分という存在すら危ういものだ。
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「いろんな味を楽しめる」が謳い文句の小さなケーキ6つセット。どれも似たようなチープな味で、見た目だけが違う同じケーキ6つセット。これをなんと表せばよいか。不出来さ、足りなさ、どれだけ着飾っても同じ味の、滑稽さ。それが恐ろしいほど愛おしい。
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時が止まったように感じる。静かで、誰もいない、なんの変化もない。異世界に飛ばされたみたいで恐ろしい。自分一人しか生きていないなんて、孤独で寂しい。
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朝の静かな空気と薄い空は良いものだ。気持ちがスッと落ち着く。不安と隣り合わせとも言えるが、健康な日は穏やかだと思えるよ。
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あの夜からずっと抜け出せないでいる。僕たちの間ではタブーばかりが増えた。もっと僕が強かったら……そんなことを思う。
何かを見ようとしてやめてしまった。今となってはそれも正しかったのかもしれない。
殴りたいし殴られたい、誰かに罰してもらいたい。哀れだな、僕たち。
今すぐにでも殴ってほしいよ。でも、恋人を犯罪者にしようとするような僕はきっと君を愛していないんだろうな。
お題︰どうして
空を見ても、音楽を聴いても、美術館に行っても、景色を見ても、何にも感じなくなった。
何かにときめくことがなくなって、素敵と感じることがなくなって、煌めきが見えなくなった。
しんどい、つらい、消えたい、そればっかり、それしか感じられない。
表現ができなくなった、どんな言葉遣いをしたらいいのか分からなくなった、書き記したいこと伝えたいことが分からなくなった。
何度も書こうと指を動かしては止まる。
熱意がない、何も感じなくなった、何も書けなくなった、それが、辛い。悲しい。
単調な言葉しか出てこない。言葉が降ってこない。登場人物が返事をくれない、喋ってくれない、それに引きずられるように想像力も働かなくなった。
どうしてかな。つらいな。
全部消してしまいたい。
どうしてかな、そればっかり。
お題︰寒さが身に染みて
夜、寝る前、ふと不安にかられたとき、ふと逃げたくなったとき、どうしようもなく人生をリタイアしたくなったとき。
激しい動悸に見舞われて、目の前にある大量の薬を飲み干したくなる。
しかしいざ飲もうとすると「失敗したらどうなるだろう」「後遺症になってもっと生きづらくなったらどうしよう」「部屋の片付けくらいしとけばよかったかな」なんて、至極真っ当なことを思い浮かべるのだ。
そうやってぽやぽやしているうちに頭にまで血が上って座っていられないほどドクドク鳴り響き、更には「私は一刻も早く死ななければならない!」などと意味不明なことが頭の中を満たしていく。
決して死にたいわけではなく、なんなら生きたいと思っているが、この消えたいという衝動も嘘偽りのないもので、しかし消えたいという衝動は脳みそが勝手に出しているだけであり自分の意志ではないし、最早自分の感情をコントロールできなくなる。
ここまで来たら死にたいも死にたくないもどうでもよくなってこの状況から一刻も早く脱したいという気持ちが強くなる。悩み葛藤し苦しい状況から逃げ出したい一心だ。
逃げたい、逃げたい、でもどうやって
上着も着ず、靴下も履かず、服一枚で外に出ろ。極寒の中ただひたすら突っ立っていれば良い。寒さで全身が震えて、指と足先がどんどん凍って、耳と鼻が千切れるくらい冷たくなっていくのをじっと感じればいい。
寒い、寒い、寒い!
5分外に出ておけばいい。そうしたら寒い以外何も考えられなくなる。さっきまでの不安だとか逃げたいだとか死にたいだとか、考える余裕なんてない。ただひたすら寒くて体を温めようと体が必死に震えるばかり。
寒さというのはいい薬だ、しかも良く効く。
服一枚で外に出て突っ立っていろ。
「頭の中がグルグルモヤモヤでいっぱいになったときどうしたらいいですか」
に対する今のところ一番良い回答だ。
寒さが身に染みて布団の暖かさにひどく安堵し、つかの間の安全地帯で眠りにつける。例え眠れなくとも安心感に包まれて、少しだけ幸せになれるというものだ。